2017 Fiscal Year Annual Research Report
栄養バランスの変化に応じて発生タイミングを調整する適応能力の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Interplay of developmental clock and extracellular environment in brain formation |
Project/Area Number |
17H05766
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
上村 匡 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (80213396)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 栄養バランス / 発生タイミング / 成長 / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
自然界には、様々な物を食べる広食性の種と、特定の物のみを食べる狭食性の種が存在する。我々は、様々な栄養環境に対して個体がどのように応答し、適応(個体成長)を実現しているかを明らかにするため、食性の異なるショウジョウバエ近縁種に注目した。モデル生物キイロショウジョウバエは、自然界では発酵した多種類の果物を食べる広食性種で、適応できる栄養条件の幅が広い。一方で、その近縁種には特定の花や果実のみを食性とする狭食性種も存在する。そこで、キイロショウジョウバエを含む広食性二種と狭食性三種を選び、異なる栄養バランスに対する適応能力と応答を比較した。栄養バランスを捉える上で、タンパク質と炭水化物の比に着目し、この比が異なる複数の食餌条件で各種の幼虫を育てた。その結果、広食性種はどの食餌条件でも蛹までの発生率が高い一方で、狭食性種は高炭水化物餌に適応できないことを見出した。加えて、広食性種と狭食性種が野外で餌とする食物を分析し、餌中の炭水化物比率増加に伴い発生率が低下する狭食性種の適応能力にとって鍵となる栄養バランス構成因子を絞り込んだ。これらの結果をもとに、栄養バランスへの適応能力の種間差を生み出す全身性シグナル伝達経路を探索し、糖への応答機構として近年報告された TGF-β/Activin シグナル伝達経路に着目した。上記の広食性種と狭食性種、そして広食性種キイロショウジョウバエの Activin 変異体は、異なる食餌条件下での発生率が互いによく似ていた。さらにそれぞれの種や変異体を育てた際の応答をオミクス解析により調べたところ、狭食性種セイシェルショウジョウバエが示す遺伝子発現及び代謝産物量の変動パターンは、キイロショウジョウバエ Activin 変異体の応答と非常に酷似することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに得られた結果をさらに解析し、TGF-β/Activin シグナル伝達経路により制御され高炭水化物食への適応に寄与する遺伝子群の同定を試みた。どの組織でアクチビンシグナルを受容することが栄養バランスに応じた適応に重要かを明らかにする目的で、組織特異的にアクチビン受容体遺伝子をノックダウンした。その結果、少なくとも筋肉が適応に寄与していることがわかった。筋肉などの組織特異的な遺伝子発現解析を行った結果、栄養バランスに応じた代謝酵素遺伝子群の発現調節が広食性種の代謝恒常性を維持し、その適応能力を支える可能性が考えられた。 広食性種と狭食性種のいずれの種にも、TGF-β/Activin シグナル伝達経路を構成する遺伝子は保存されており、しかも少なくとも転写レベルで発現しているにもかかわらず、両者の間で高炭水化物食への適応に大きな差が生じていた。餌中の炭水化物比率の増加に伴い発生率が低下する狭食性種では、このシグナル経路内のいずれかの遺伝子に変異が生じたために、代謝酵素遺伝子群の発現制御ができず高炭水化物食へ適応不全を示すとの仮説を立て、その検証も行った。その目的で広食性種と狭食性種との雑種を作製し、その遺伝子発現や表現型を解析した。その結果、TGF-β/Activin シグナル経路を構成する複数の遺伝子に変異が起きたことが原因の一つとして考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
狭食性種は、高炭水化物食条件下で多数の代謝産物の量が上昇する。この中には複数の有機酸が含まれることから、血リンパ液が酸性化しており、このため狭食性種が適応できなくなる可能性が考えられた。この可能性を検証する。
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Research Products
(21 results)