2017 Fiscal Year Annual Research Report
細胞外環境との連携による染色体高次構造の変動を介した脳発生の制御
Publicly Offered Research
Project Area | Interplay of developmental clock and extracellular environment in brain formation |
Project/Area Number |
17H05767
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
藤田 幸 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (60631215)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 中枢神経 / 発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中枢神経回路形成の過程においてゲノム高次構造はどのように変動し、発生の時間軸、場に即した遺伝子発現を実現しているのか、明らかにすることを目的としている。中枢神経発生の過程では、ゲノム高次構造の変化を伴って、様々な遺伝子の発現が変動する。このようなクロマチン動態を制御する重要な因子として、染色体接着因子コヒーシンに着目して研究を進めている。コヒーシン複合体は染色体の接着に関わるタンパク質複合体で、4つのサブユニットから構成されるリング状の構造を形成する。このリング状の構造の中に、ゲノムをループ状に束ね、離れたエンハンサーを空間的にプロモーターの近傍に配置し、適切な相互作用を可能にすることで、遺伝子の転写を調節すると想定されている。また、ヒトのコヒーシン関連遺伝子の変異により引き起こされる疾患であるCdLSでは、精神遅滞、四肢の形成異常、などの分化発生異常を伴うことが知られている。このことは、コヒーシンが中枢神経系の発生に重要であることを示唆している。我々は、コヒーシンの機能低下が中枢神経の発生・発達に及ぼす影響を明らかにするため、コヒーシンサブユニットの一つであるSmc3のコンディショナルノックアウトマウスを作成した。Smc3ヘテロ欠損マウスは、大脳皮質第Ⅱ/Ⅲ層の神経細胞の樹状突起の複雑化、スパインの形態異常を示すことを確認した。また、大脳皮質で興奮性後シナプスマーカーであるPSD-95の発現低下が確認され、電子顕微鏡像からはポストシナプスの形態異常が観察された。さらに、CdLS脳組織においても、樹状突起の異常が観察された。以上の結果はコヒーシンによるゲノム高次構造の制御が、正常な中枢神経発生に必要であることを示唆している。細胞外環境との連携によるゲノム高次構造制御のメカニズムを明らかにすることが、今後の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、細胞外環境との連携により、発生期の脳内で中枢神経回路が形成されるメカニズムを解明することを目的としている。平成29年度の研究では、神経幹細胞特異的にコヒーシンを欠損したマウスを作出した。このマウスでは、野生型と比較して、神経幹細胞数が低下すること、神経幹細胞分化が障害されることを見出した。また、神経幹細胞分化の過程において、コヒーシン欠損マウスの大脳皮質で発現変動を示す遺伝子を同定した。これらの研究成果をまとめた論文発表を予定しており、当初の目的をおおむね順調に達成している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、コヒーシンが中枢神経回路形成に重要であることが明らかになった。神経細幹胞特異的にコヒーシンを欠損したマウスでは、神経幹細胞分化が障害されることを細胞培養実験、組織解析実験等により明らかにした。また神経細幹胞特異的にコヒーシンを欠損したマウスにおいて、発現変動を示す遺伝子を同定した。今後は、細胞外環境との連携によるゲノム高次構造制御のメカニズムを明らかにすることが目標である。中枢神経回路形成過程において、コヒーシンを介した遺伝子高次構造変動は、細胞外環境によってどのように制御されるか、検証する。
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