2017 Fiscal Year Annual Research Report
グリア細胞による神経幹細胞の増殖開始時期の調節
Publicly Offered Research
Project Area | Interplay of developmental clock and extracellular environment in brain formation |
Project/Area Number |
17H05778
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
西村 隆史 国立研究開発法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, チームリーダー (90568099)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 神経科学 / 発生・分化 / 神経幹細胞 / グリア細胞 / インスリンシグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請課題は、分子遺伝学的解析に優れたキイロショウショウジョウバエをモデル生物として用い、脳神経幹細胞の分裂開始に及ぼすグリア細胞由来の新規因子の機能解析と通して、発生時間と場の連携を理解することを目的とする。ショウジョウバエ幼虫期において、神経幹細胞の増殖分化は、幹細胞自身が持つ内在的な仕組みとは別に、細胞非自律的な仕組みで分裂開始が厳密に制御されている。特に、脳表層グリア細胞は血液脳関門を形成するだけではなく、体液中の栄養状態や種々のホルモンを認識し、発育段階に応じた神経幹細胞の増殖タイミングを制御する。本研究では、独自に見いだした分泌性因子SDRに着目し、脳発育における機能解析を行う。SDRは、脳表層グリア細胞で発現し、休止期にある中枢脳神経幹細胞の分裂期開始の調節に関わることを見いだした。SDRが、どのように脳内でインスリンシグナル伝達経路を制御し、脳発育と脳構築に関わるかを多角的な視点で解析した。 2017年度の研究実績として、組織学的解析および遺伝学的解析を中心として、SDR変異体で生じる表現型の原因が、神経幹細胞のインスリンシグナルの低下によることを明らかにした。さらに、SDRと遺伝学的に相互作用する因子として、分泌性インスリン結合蛋白質であるImp-L2を同定した。この結果から、2種類のインスリン結合蛋白質が、脳内において競合的に機能することで、脳発育を厳密に制御していることが明らかになった。神経幹細胞とグリア細胞の相互作用による分裂開始の仕組みを理解する重要な知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
栄養摂取に応じた神経幹細胞の分裂期開始は、グリア細胞由来のインスリン様ペプチドと神経幹細胞のインスリンシグナルが重要な役割を果たすことが知られている。リン酸化Akt抗体を用いた抗体染色および脳組織を用いた発現解析により、SDR変異体ではインスリンシグナルが低下していることが分かった。遺伝学実験により、SDR変異体の神経幹細胞でインスリンシグナルを亢進させると、表現型が回復した。これらの結果から、神経幹細胞の分裂期への移行遅延が、インスリンシグナルの低下によることが明らかになった。分泌性因子SDRは、インスリン様ペプチドと結合し、その機能を負に制御するだけではなく、正に制御する機能を有することが分かった。また、GFP融合SDR蛋白質を発現する遺伝子挿入系統を樹立し、GFP-SDRの局在を観察したが、現段階において脳組織内における明確な挙動を観察することはできなかった。一方、SDR遺伝子と相互作用する因子を遺伝学的に探索した結果、もう一つの分泌性インスリン結合蛋白質であるImp-L2を同定した。SDRとImp-L2の二重変異体では、SDR変異体の表現型が抑制されることが明らかになった。この結果から、2種類のインスリン結合蛋白質が、脳内において競合的に機能することで、脳発育を厳密に制御していることが明らかになった。 当初予定していた研究計画に対して、順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
SDR変異体の幼虫脳では、神経幹細胞の休止期から分裂期への移行が遅延し、脳発育の遅延を引き起こす。昨年度の研究結果から、SDR変異体の神経幹細胞は、インスリンシグナルが低下していること、変異体の表現型はインスリンシグナルの亢進により回復することが分かった。 今後は、摂食に伴う栄養シグナルによって誘導される脳発育進行を理解する目的で下記の3点を中心に研究を実施する。(1) SDR遺伝子と相互作用する因子を遺伝学的に探索し、SDRがどのような機構で脳内インスリンシグナルを制御しているのか解明する。(2) 引き続き脳内におけるSDR蛋白質の挙動と分布を組織学的に観察する。(3)SDRとImpL2の結合蛋白質を探索し、インスリン様ペプチドに対して機能的な差違を生み出す仕組みを解析する。 これらの実験を通して、神経幹細胞とグリア細胞の相互作用による分裂開始の仕組みを解明し、個体レベルにおける神経発生の時間的調節の仕組みを明らかにする。
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