2017 Fiscal Year Annual Research Report
受精前後の胚乳発生を制御する新しい鍵転写因子とエピゲノム制御の包括的理解
Publicly Offered Research
Project Area | Determining the principles of the birth of new plant species: molecular elucidation of the lock-and-key systems in sexual reproduction |
Project/Area Number |
17H05831
|
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
池田 美穂 (樋口美穂) 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (10717698)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 転写制御 / 胚乳 / 種子形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は受精非依存的に胚珠が肥大するキメラリプレッサーを複数単離し、これらにおいて機能的な胚乳が発生しているかを多角的に評価した。機能的な胚乳は胚を養育する能力と、種皮発生を誘導する能力を併せ持つことが知られている。我々はまず、未受精での種皮の発達を確認するため、3種の胚珠肥大キメラリプレッサー(Pro35S:ESP1aSRDX, Pro35S:ESP2SRDX, Pro35S:ESP3SRDX)の未受精胚珠のバニリン染色を行った。バニリン染色は、種皮の発達に伴って蓄積するプロアントシアニジンを赤色に呈色する。Pro35S:ESP1aSRDX, Pro35S:ESP2SRDX, Pro35S:ESP3SRDX)の未受精胚珠はいずれも赤色の呈色を示し、未受精でのプロアントシアニジンの蓄積が検出され、未受精で種皮の発生が明らかとなった。 次に我々は、各胚珠肥大キメラリプレッサー植物体の詳細な解析を行うため、ライン化を試みた。胚珠肥大の表現型が強い胚珠肥大キメラリプレッサー植物体においては稔性が低下する傾向があったが、ProESP1a:ESP1aSRDX, Pro35S:ESP3SRDXについて良好なラインを得ることに成功した。 そこで次に、胚を養育する能力を評価するために、胚珠肥大キメラリプレッサーラインを母体とし、精核が一つしかできないkokopelli変異体花粉を交配して、Single fertilization実験を行った。その結果、野生型を母個体とした場合に単独で受精した胚は球状型で発生を停止するのに対して、ProESP1a:ESP1aSRDX, もしくはPro35S:ESP3SRDXを母個体とした場合に単独で受精した胚は初期心臓型胚まで生育しうることがわかった。これらの結果から、キメラリプレッサーによって肥大した胚乳が、胚養育能力を有していることが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
胚乳は胚の養育を担う種子形成に必須の組織であり、受精まではその発生を休止している。この発生を制御する「鍵」の1つがエピジェネティック制御であることはよく知られているが、関連転写因子については報告がない。本研究では、転写因子の機能抑制法であるキメラリプレッサー法を用いて単離した受精非依存的な胚珠肥大を誘導するキメラリプレッサー植物体の機能解析を通して、胚乳発生に対する転写因子についての関与に関する知見を得ることを目的としている。平成29年度には、3種のキメラリプレッサー植物体における未受精での種皮発達を観察し、2種のキメラリプレッサー植物体の未受精胚珠中で単独受精した胚が心臓型まで発生しうることを確認した。これらの結果は、未受精で肥大したキメラリプレッサー胚珠の中の胚乳(もしくは肥大した中央細胞)が、ただ肥大しているのみではなく、種皮形成、および、胚養育に関するなんらかの機能を習得していることを示しており、今後の研究において、各キメラリプレッサー植物体の胚珠肥大メカニズムや、エピジェネティック制御との関連性について解析を進める上で非常に重要な基礎的知見を得たと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
まずは、各キメラリプレッサーがどのようなメカニズムで受精非依存的な胚乳発生を誘導するのかを明らかにするため、胚珠トランスクリプトーム解析を実行する。その結果から、各キメラリプレッサーのターゲット因子を推定し、エピジェネティック制御やその他の胚乳発生因子などとの関連性について知見をえる。また、未受精での胚珠肥大キメラリプレッサーの元となっている転写因子の本来の機能を明らかにするため、ESP1a, ESP2, ESP3の発現時期とタンパク質の局在解析などを行う。
|