2017 Fiscal Year Annual Research Report
受精卵発生における父性鍵因子の同定と異質倍数性受精卵の発生機構
Publicly Offered Research
Project Area | Determining the principles of the birth of new plant species: molecular elucidation of the lock-and-key systems in sexual reproduction |
Project/Area Number |
17H05845
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
岡本 龍史 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (50285095)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 受精 / 卵細胞 / 精細胞 / 受精卵 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の受精卵における母親と父親のゲノム量比は1:1、初期胚乳細胞におけるそれは2:1である。この両親ゲノム比は胚乳の発達機構と密接に関連していることが知られているが、受精卵の発生過程においても雄性ゲノム過多が発生不全を引き起こす一方で、雌性ゲノム過多の受精卵は正常に発生することが近年明らかにされ、受精卵発生過程におけるエピジェネティック制御機構の存在が示されつつある。また、異種交雑受精卵の発生については、異質2倍体受精卵は異種間軋轢による発生不全を示すが、異質3倍体受精卵ではこの発生不全現象が緩和(低減)される可能性が示されている。本研究では、主に下記の2項目について研究を進めると共に、卵細胞の受精非依存的な自律的分裂を制御している分子基盤についても付せて解析を進める。
(1) 受精卵発生における父性鍵因子の同定:イネ受精卵中において受精後に発現が誘導され、かつ父親アリル特異的に発現する遺伝子群について、それらが受精卵発生過程において鍵因子として働く可能性を検証する。具体的には、異所的強制発現により卵細胞の発生または細胞状態に変化を引き起こし、かつ、発現抑制により受精卵の発生に阻害的効果を示す遺伝子を選び出す。さらに、同定した鍵因子の標的因子の特定に取り組み、受精卵の初期発生過程における鍵と鍵穴の理解をめざす。
(2) 異質倍数性受精卵の発生機構:異種の配偶子を任意の組み合わせで融合させることにより様々な異質倍数性受精卵を作出し、どのような異種雌雄ゲノムの組み合わせをもつ受精卵が発生能を有するか見つけ出す。その後、それら交雑胚における遺伝子発現プロファイルの違いを明らかにし、さらに、交雑胚中の転写産物がいずれの異種雌雄ゲノムに由来するのか特定する。これにより、異質ゲノムをもつ受精卵・胚の発生機構の一端を明らかにし、さらに、胚発生不全機構を乗り越えるための糸口を見つけ出す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) 受精卵発生における父性鍵因子の同定:亜種間交雑イネ受精卵のトランスクリプトームおよびSNP解析により、父性アリルにのみ由来して発現する23個の遺伝子を同定した。これら遺伝子の中から転写因子、脱リン酸化酵素、および植物ホルモン合成酵素などをコードする8つの遺伝子について、受精卵発生過程におけるそれら遺伝子のアリル依存性を調べたところ、受精卵発生過程の初期でアリル依存性が両親性あるいは母性アリル依存的に変化することが示された。また、それら遺伝子遺伝子をイネ卵細胞に異所的に発現させたところ、転写因子であるOsASGR-BBML1を発現させると卵細胞の核分裂・細胞分裂が誘導できることを見出した。これらの結果は、当該遺伝子群の父性アリル依存的発現が卵細胞の受精非依存的分裂・発生に対するセーフティーシステムとして機能している可能性を示唆している。
(2) 交雑受精卵の発生機構:今年度はイネ配偶子とコムギ配偶子から交雑受精卵を作出し解析を進めた。イネ卵細胞とコムギ精細胞から作出したイネ-コムギ受精卵は50個体中22個体が球状様胚まで発生を進めた一方で、雌雄を逆にしたコムギ-イネ受精卵は作出した全個体(8個体)が核合一後に分裂をせずに発生を停止した。これらの結果は、異種配偶子融合の組み合わせ(方向性)に依存して受精卵発生の進行が異なることを細胞レベルで初めて示したものである。さらに、イネ受精卵とコムギ卵細胞を融合させた異質倍数性受精卵は6個体中2個体が増殖カルスにまで分裂・成長を進めた。
(3) 単離卵細胞の受精非依存的な分裂・発生を誘導する化合物のスクリーニング:卵細胞の単為発生・分裂を誘導する化合物のスクリーニングを行い、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤が非常に高い確率で卵細胞の核分裂を引き起こすことを見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 父性鍵因子候補の機能解明:これまでにイネ受精卵中で雄性アリル依存的に発現する遺伝子を23個同定し、それら遺伝子を卵細胞および受精卵で一過的発現に発現させることでそれらの細胞学的動態の変化を調べた。その結果、OsASGR-BBML1による卵細胞の分裂誘導、および受精卵の発生阻害が観察された。次年度は、OsASGR-BBML1以外の候補因子について解析を進める。 また、OsASGR-BBML1を異所的に発現させた卵細胞のmRNA-sequence解析などにより、当該転写因子で制御される遺伝子群の同定を試みる。
2. 異質倍数性受精卵の発生機構:イネおよびコムギの配偶子を任意の組み合わせで融合させることにより様々な異質倍数性交雑受精卵を作出し、どのような異種雌雄ゲノムの組み合わせをもつ受精卵が発生能を有するか見つけ出す。次に、発生が進行する交雑正常胚と発生が停止してしまう交雑不全胚における異種ゲノム(染色体)の保持状態を確認したのち、それら受精卵および胚のトランスクリプトーム解析を行いうことで遺伝子発現プロファイルの違いを明らかにし、さらに、交雑胚中の転写産物がいずれの異種雌雄ゲノムに由来するのか特定する。
3. 単離卵細胞の受精非依存的な分裂・発生現象の解析:これまでに様々な亜種・品種のイネから卵細胞を単離し、それらの受精非依存的分裂能を調べたところ、日本晴(ジャポニカ品種)の卵細胞はその分裂活性は低いが、カサラス(インディカ品種)の卵細胞は高い分裂能を有していた。次年度は、日本晴-カサラスの染色体置換系統を育成しそれらの卵細胞の分裂活性を比較することで、受精非依存的な卵細胞の分裂に関与する染色体領域を絞り込みを行うとともに、遺伝子座の同定に繋げる。また、日本晴卵細胞の分裂誘導する物質、HDAC阻害剤の作用機作を明らかにする。
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[Presentation] Effects of imbalanced parental genome ratio on zygotic development and possible function of genes expressing in zygotes with paternal allele-specific manner2017
Author(s)
Toda, E., Kobayashi, M., Takahara, M., Ohnishi Y., Rahman, H., Watanabe, Y., Iwami M., Sekimoto, H., Yano, K., Okamoto, T.
Organizer
Cold Spring Harbor Asia Conference on Plant Cell and Developmental Biology
Int'l Joint Research / Invited
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