2017 Fiscal Year Annual Research Report
卵細胞被覆構造体の解析を起点とする配偶子融合のメス側因子の探索
Publicly Offered Research
Project Area | Determining the principles of the birth of new plant species: molecular elucidation of the lock-and-key systems in sexual reproduction |
Project/Area Number |
17H05846
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
丸山 大輔 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 助教 (80724111)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | シロイヌナズナ / 卵細胞 / 中央細胞 / 助細胞 / 花粉管 / 細胞壁 / 重複受精 |
Outline of Annual Research Achievements |
被子植物の生殖過程では重複受精の直前に,卵細胞と中央細胞という2つの雌性配偶子の間に生じる間隙へと2つの精細胞が送り込まれる.受精領域というべきこの間隙にどのようなタンパク質や細胞壁成分が蓄積し,受精においてどのような役割をはたしているのかについては,これまでほとんど研究報告が存在しない.われわれは29年度,シロイヌナズナの未受精胚珠における卵細胞と中央細胞の間に存在する細胞壁について,高解像度の連続走査型電子顕微鏡像をFIB-SEMによって取得することに成功した.切片像の細胞輪郭をトレースして三次元構築した結果,卵細胞と中央細胞の間にはディスク状の細胞壁が繋がり合ってパッチワーク状になっていることがわかった.この形状は卵細胞から分泌されるセリンプロテアーゼSBT4.13をCloverでラベルした高解像三次元像と類似していた.これらの成果は日本植物学会第81回大会の口頭発表および第59回日本植物生理学会年会のシンポジウムにて発表した.今後,SBT4.13を利用して卵細胞の分泌タンパク質のプロテオーム解析を展開するため,奈良先端大の中島敬二教授と共同研究を開始した.一方で,透過型電子顕微鏡の観察により,卵細胞と中央細胞の間には電子密度の高い顆粒状の構造が多数存在することは古くから知られていた.これらは上記のパッチ状細胞壁内に散在する構造と推測されるが,その成分は不明であった.われわれはこの構造がクチンである可能性について検討するため,ジュネーヴ大のLuis Lopez Molina博士や木下班との共同研究でクチクラ合成経路の遺伝子を欠損する変異体を解析する共同研究を開始した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
卵細胞と中央細胞の間に存在する細胞壁については,FIB-SEMによる高解像度の連続走査型電子顕微鏡像を取得することに成功した.切片像の細胞輪郭を180 nm間隔でトレースした66枚の画像を三次元構築した結果,卵細胞と中央細胞の境界面において特異的にパッチ状の細胞壁が存在することが明らかとなった.類似のパッチ状構造は卵細胞特異的な分泌型プロテアーゼであるSBT4.13をCloverでラベルすることによっても観察されていた.このSBT4.13-Cloverマーカーラインを様々な発達ステージの雌しべで観察したところ,開花直前の胚珠ではCloverのシグナルが細胞内に限定されている場合が多いのに対し,未授粉のまま1日もしくは2日経過した雌しべでは細胞外へ蓄積した胚珠の割合が上昇した.したがって,パッチ状の細胞壁は卵細胞の成熟とともに形成され,卵細胞からの分泌タンパク質を蓄積することが示唆された.胚珠に含まれるSBT4.13-Cloverがウェスタンブロット法で検出できなかったため,プロテオーム解析に十分な量の試料を集めるアプローチとして,卵細胞のアイデンティティ決定に重要な転写因子であるRKDの過剰発現に着目した.奈良先端大の中島敬二教授との共同研究で,RKDを過剰させるとSBT4.13レポーター遺伝子も誘導されることを確認できた.一方,パッチ状の細胞壁に蓄積する電子密度の高い構造がクチンかどうか検討するため,まずはトルイジンブルー染色によって胚珠におけるクチンの蓄積量が低下した変異体を選抜した.その結果,lacerata変異体, lacs2-3変異体, bodyguard1変異体の胚珠がトルイジンブルーに対して高い浸透性を示した.しかし,lacerata変異体の未受精胚珠を透過型電子顕微鏡で観察したところ,卵細胞周辺に存在する高電子密度の顆粒状構造は依然観察された.
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Strategy for Future Research Activity |
卵細胞周辺のパッチ状の細胞壁が受精にはたす役割を突き止める.われわれの仮説では,花粉管の内容物が卵細胞と中央細胞の間に移行して蓄積する際,卵細胞と中央細胞の細胞膜をスムーズに剥離させるため,このパッチ状の細胞壁がスペーサーとして働いている.この仮説を検証するため,卵細胞特異的に分泌活動を停止させることで細胞壁形成を阻害したライン(pEC1.1::SAR1 H74L)や胚のう形成時のオーキシン合成量を操作して卵細胞の代わりに3つの助細胞を有する胚珠を形成するライン(pES2::YUCCA1)を作出する.パッチ状の細胞壁が作られないこれらの胚珠における花粉管内容物の放出パターンを解析することで,受精領域の形成に対してパッチ状の細胞壁がはたす役割を明らかにする.また,卵細胞周辺のパッチ状細胞壁に蓄積するタンパク質の同定と機能解析に向けて,RKDの誘導によって細胞外へと分泌されるタンパク質をプロテオーム解析する.同定したタンパク質をコードする遺伝子についてはヌル変異体を作出し,受精欠損が現れるかどうか調べる.その一方で,単離したSBT4.13を含む粒子の生理活性について解析を行う.具体的にはこの顆粒が精細胞の活性化因子として同定されているEC1ペプチドを機能的な形で含むかどうか調べるため,精細胞に加えたときに細胞膜融合因子GCS1が細胞膜へと表出するか調べる.また,花粉管のF-アクチンの結合活性についてin vitroアッセイで検討する.これらのタンパク質の解析以外に,細胞壁多糖の解析も行う.最近,植物の透明化試薬であるClearSeeと共に使用ができる染色試薬が報告されたので,これらの染色法を駆使することで卵細胞と中央細胞の間に存在する細胞壁がどのような多糖を含むか調べる.また,多喜班によって開発された細胞壁染色試薬を利用して,パッチ状の細胞壁のライブイメージングにも挑戦する.
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Research Products
(9 results)
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[Journal Article] RETINOBLASTOMA RELATED1 mediates germline entry in Arabidopsis.2017
Author(s)
Zhao, X., Bramsiepe, J., Van Durme, M., Komaki, S., Prusicki, M.A., Maruyama, D., Forner, J., Medzihradszky, A., Wijnker, E., Harashima, H., Lu, Y., Schmidt, A., Guthorl, D., Logrono, R.S., Guan, Y., Pochon, G., Grossniklaus, U., Laux, T., Higashiyama, T., Lohmann, J.U., Nowack, M.K., Schnittger, A.
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Journal Title
Science
Volume: 356
Pages: eaaf6532
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Spatiotemporal deep imaging of syncytium induced by the soybean cyst nematode Heterodera glycines.2017
Author(s)
Ohtsu, M., Sato, Y., Kurihara, D., Suzaki, T., Kawaguchi, M., Maruyama, D., Higashiyama, T.
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Journal Title
Protoplasma
Volume: 254
Pages: 2107~2115
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] A pharmacological study ofArabidopsiscell fusion between the persistent synergid and endosperm.2017
Author(s)
Motomura, K., Kawashima, T., Berger, F., Kinoshita, T., Higashiyama, T., Maruyama, D.
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Journal Title
Journal of Cell Science
Volume: 131
Pages: jcs204123
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Presentation] Analysis of the structure surrounding the egg cell in Arabidopsis thaliana.2018
Author(s)
Susaki, D., Oi, T., Tomomi S., Izumi, R., Enomoto, S., Arai, S., Kinoshita, T., Maruyama., D.
Organizer
第59回日本植物生理学会年会
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[Book] Plant Germline Development2017
Author(s)
Susaki, D., Maruyama, D., Yelagandula, R., Berger, F., Kawashima, T.
Total Pages
47~54
Publisher
Humana Press, New York, NY
ISBN
978-1-4939-7286-9