2017 Fiscal Year Annual Research Report
蛋白質機能を駆動する水和構造の時空間階層イメージング
Publicly Offered Research
Project Area | Novel measurement techniques for visualizing 'live' protein molecules at work |
Project/Area Number |
17H05891
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
中迫 雅由 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30227764)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 蛋白質水和 / ドメイン運動 / 時間分解蛍光測定 / 光受容蛋白質 / クライオ電子顕微鏡 / X線小角散乱 / 立体構造 / 分子動力学計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、溶液中の蛋白質がどのような分子及び溶媒和ダイナミクスを伴って機能発現しているのかを探る研究を行っている。これまで、酵素蛋白質のドメイン運動を結晶構造解析と分子動力学計算によって明らかにしてきたが、これに関連して、個々の分子のクライオ電子顕微鏡像から、実験的にドメイン運動の準安定状態を探り、動きが制限される結晶構造解析では観察できない溶液中での構造多形の可視化を試みた。グルタミン酸脱水素酵素の投影構造をクライオ電子顕微鏡を用いて観察し、100万にも及ぶ投影静電ポテンシャル像から、その平均構造を、0.25 nm以上の分解能で構造解析した。さらに、投影像からドメイン運動を分類することで、四つの準安定状態0.4 nm以上の解像度でを見出した。また、電子顕微鏡による構造解析の正当性を確かめるために、X線小角散乱プロファイルと、得られた三次元構造モデルから計算される球平均構造因子の比較も行った。 ドメイン運動が顕著と考えられる植物光受容蛋白質phototropin2とphytochrome B全長の構造外形をX線小角散乱によって明らかにした。前者では、光誘起構造変化を明らかにし、後者では、排除体積クロマトグラフィーとX線小角散乱を組み合わせた測定から、凝集の無いプロファイルを得、多変量解析を用いた分子モデル選択アルゴリズムを用いて低分解能分子構造モデルを明らかにすることができた。また、クライオ電子顕微鏡を用いてその詳細な立体構造の可視化を試みた。時間分解蛍光和周波測定装置については、より少量の試料からダイナミック・ストークスシフトを測定することを主眼として、光学系の高度化と溶液セルの改造などを進めた。また、次年度に向けて、重水中でのダイナミック・ストークスシフトを計測して、トリプトファン周辺の水和構造ダイナミクスに変化が生じるか否かを測定するための準備を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、溶液状態にある蛋白質分子の運動を調べるために、分子動力学計算、クライオ電子顕微鏡、X線小角散乱、時間分解蛍光測定を用いた研究を展開しており、各研究手法や測定対象としている蛋白質分子の構造について論文掲載がなされるようになってきた。また、分子動力学計算では、従来方法からは予想できない成果も得られている。 分子動力学計算では、前課題でドメイン運動を制御する水分子の存在を明らかにしたが、本課題では、さらに、水分子がアミノ酸残基と形成する水素結合について、より根本的な研究を行い、従来から分動力学計算に用いられてきた力場では、sp2混成軌道を有する脱プロトン化した酸素原子と窒素原子の水素結合を再現できないことを明らかにし、孤立電子対を考慮した力場を考案した。この力場を用いた結果、従来の力場を用いた場合と異なり、結晶構造解析で得られている水和構造を再現できるようになった。 実験面では、電子顕微鏡、X線小角散乱、時間分解蛍光測定を三つの柱として研究を進めているところである。クライオ電子顕微鏡では、平成29年度の研究成果で述べたように、グルタミン酸脱水素酵素のドメイン運動を分類し、各準安定状態を検討できるようになっている。また、溶液中での立体構造を調べるX線小角散乱法を用いて、光受容蛋白質の構造解析を進めることができており、phototoropin2の光構造変化やphytochrome B分子概形を明らかにすることができている。時間分解蛍光測定では、生体試料からの微弱な和周波光を定常的に測定可能となり、リゾチームからの和周波測定に成功している。トリプトファン蛍光の動的ストークスシフトを再構成できるようなった。水中リゾチームの分子動力学計算トラジェクトリーから、水分子の双極子とトリプトファンの双極子の相互作用が、動的ストークスシフトの主要因となっていることを、明らかにしている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題では、溶液状態にある蛋白質分子の運動を調べることを主眼に研究を行っている。これまでに展開してきた分子動力学計算、クライオ電子顕微鏡、X線小角散乱、時間分解蛍光測定によって、溶液状態にある蛋白質分子の運動研究を更に展開するため、平成30年度は以下のような研究の展開を考えている。分子動力学計算では、これまでの自発的ドメイン運動に加えて、基質結合に伴う構造変化を追跡して水和構造がどのように変化しうるのかを観察する研究を展開したい。クライオ電子顕微鏡によるグルタミン酸脱水素酵素の構造解析結果では、すでに得られているX線小角散乱や分子動力学計算結果との比較検討を通じて、それら三つの測定手法を融合した新たなダイナミクス研究へ道筋を付けたい。メイン運動が顕著な光受容蛋白質phototropin2とphytochrome Bについては、X線小角散乱で得られた構造概形を用いて、クライオ電子顕微鏡像の選択ができないかを検討する。さらに、グルタミン酸脱水素酵素の構造解析で経験した構造分類スキームやX線自由電子レーザーによる構造解析用に開発したマニフォールド・ラーニングによる構造分類法を用いることで、それらの構造多形を仕分けしながら構造解析に至らないかを検討する予定である。時間分解蛍光測定では、卵白リゾチームの軽水中と重水中での蛍光時間変化を観察できないか検討しているところであり、ダイナミックストークスシフトへの溶媒ダイナミクスの影響をより鮮明にした測定を試みたい。蛍光時間分解測定をグルタミン酸脱水素酵素の野生型や、現在注目しているトリプトファン残基をフェニルアラニンに置換した変異体に適用できるようになれば、本課題で用いている分子動力学、X線小角散乱、クライオ電子顕微鏡の知見を統合しながら、同酵素蛋白質のドメイン運動について、これまでに無い視点から迫れるのではないかと考えている。
|
Research Products
(10 results)