2017 Fiscal Year Annual Research Report
高時空間分解能一分子観察と理論解析を組み合わせた分子モーター運動解析法の開発
Publicly Offered Research
Project Area | Novel measurement techniques for visualizing 'live' protein molecules at work |
Project/Area Number |
17H05899
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Research Institution | Okazaki Research Facilities, National Institutes of Natural Sciences |
Principal Investigator |
中村 彰彦 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 助教 (20752968)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 分子モーター / 加水分解酵素 / キチナーゼ / 一分子観察 / 結晶構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
キチン加水分解酵素(キチナーゼ)は甲殻類や昆虫の外骨格や酵母の細胞壁を構成するキチンを分解する。キチンは主要な糖質であり、多くが未利用バイオマスとして廃棄されている。キチナーゼはキチンを分解する際にその表面を運動する分子モーターであることが明らかにされたが、その運動メカニズムは不明である。分子モーターは化学エネルギーを機械的な運動エネルギーに変換することで、その機能を果たしている。よって分子モーターの解析には運動の直接観測が必要である。そこでキチナーゼの運動メカニズムの解明を試みた。 40 nmの金コロイドと全反射暗視野顕微鏡を用いた検証の結果、0.5 msの時間分解能で0.3 nmの位置決定精度を達成した。実際にキチナーゼにビオチン/アビジン相互作用を用いて金コロイドを固定化し、キチン結晶上での一方向性の運動を観測することもできた。運動速度も蛍光色素ラベルキチナーゼと同じく約50 nm/sであったことから運動の阻害もないことが確認できた。メディアンフィルターでスムージングしたトレースに対して、ステップ検出アルゴリズム(Kerssemakers et al. Nature 2006)を適用したところ1.1 nmの前進及び後退運動を検出できた。また運動の停止時間の分布から反応時定数を推定したところ、前進運動は逐次反応の式で回帰することができ、2.9 msと23.9 msの値を得ることができた。重水中での解析を行ったところ短い時定数が3.5倍長くなったことから、加水分解の時定数が2.9 msであると結論できた。一方で後退運動と復帰運動の時定数はそれぞれ18 msと17 msであり、前進状態に自由エネルギー的優位性はなかった。すなわちキチナーゼは前進運動直後に速い加水分解によりキチン鎖を切断し、後退運動するためのレールを除去することで運動方向を決めていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は目標としていた高速高精度での一分子観察システムの検証と、実際にキチナーゼのステップ運動を観測することができた。また統計解析を行うことにより反応時定数の推定も行うことができた。よって当初の予定通り一分子観測による運動メカニズムの推定は達成できている。またステップの検出についても、実験で得られた時定数を元に運動トラジェクトリーの復元を試みたところ、実測と同様のデータが再現できた。再現したトラジェクトリーに対しステップ検出アルゴリズムを適用することで、パラメーターの復元もできておりステップ解析精度の検証もできている。しかし一分子解析だけではキチンとキチナーゼの原子レベルでの相互作用がどのようになっているのか証明することができない。そのため前進運動と後退運動での相互作用状態の違いやどのようにキチン分子鎖がスライドするのかなど、構造的観点からの実験、検証が必要となった。
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Strategy for Future Research Activity |
一分子解析の結果から、キチン分子鎖を結晶表面から剥がした(脱結晶化)あとの)前進運動後の状態とキチン分子鎖をキトビオース単位分乖離した後退運動後の状態の自由エネルギー状態がほぼ同じであることが示唆された。しかし前進運動するために必要な脱結晶化のエネルギーをどのように賄っているのか不明である。2つの状態のキチン分子鎖との結合自由エネルギー差を分子動力学シミュレーションなどで推定するためには、それぞれの状態での構造が明らかになっている必要がある。前進運動後は加水分解が起こることからも基質酵素複合体構造を作ると考えられ、その構造はすでに明らかとなっている。しかし後退運動後の構造がどのようになっているのかは不明である。そこでキチナーゼとオリゴ糖の共結晶を作成することで、キチン鎖がスライドしている途中の中間体構造や後退運動後の構造を得ることを試みる。得られた構造を元に後退運動後の構造と、前進/後退状態のキチン分子鎖との結合自由エネルギー差を求めることで脱結晶化のエネルギーをどのように賄っているのか明らかにする。
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[Journal Article] Rate constants, processivity, and productive binding ratio of chitinase A revealed by single-molecule analysis2018
Author(s)
Akihiko Nakamura, Tomoyuki Tasaki, Yasuko Okuni, Chihong Song, Kazuyoshi Murata, Toshiya Kozai, Mayu Hara, Hayuki Sugimoto, Kazushi Suzuki, Takeshi Watanabe, Takayuki Uchihashi, Hiroyuki Noji and Ryota Iino
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Journal Title
Phys. Chem. Chem. Phys.
Volume: 20
Pages: 3010-3018
DOI
Peer Reviewed
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