2017 Fiscal Year Annual Research Report
思春期の社交不安に対する2種類の認知行動療法の主体価値形成効果
Publicly Offered Research
Project Area | Science of personalized value development through adolescence: integration of brain, real-world, and life-course approaches |
Project/Area Number |
17H05922
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
高橋 史 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (80608026)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | アクセプタンス&コミットメント・セラピー / 学校 / 社交不安 / Universal Intervention / 介入 / 中学生 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は,主体価値の形成に焦点を当てた第三世代の認知行動療法のひとつであるAcceptance & Commitment Therapy(以下,ACT)による中学生の主体的価値およびそれに沿った行動の増加効果,社交不安の緩和効果を明らかにすることを目的とした。 甲信越地方の公立中学校に在籍する中学3年生168名のうち,66名を介入群へ,残りの102名を統制群へ,クラス単位で割り付けた。介入群に対しては,通常授業時間を用いて,1回50分の学級単位ACTを,月2回のペースで,計7回実施した。介入には,価値のワーク(例:日常生活における行動によって価値を明確化する),情動のワーク(例:呼吸法によるリラクセーション),認知のワーク(例:否定的思考にラベルをつけて観察する),行動のワーク(例:価値に沿った行動を計画する)が含まれた。最終セッションでは,介入プログラムの要点をまとめたA7サイズの冊子を,介入群の参加者全員に配布した。介入開始の1週間前および介入終了から約1ヶ月後には,自己評定式質問紙尺度を用いて,主体的価値の明確化の程度,社交不安,行動問題,学級風土が測定された。統制群には,学級担任からの要望に応じて,すべての測定が終了した後に同様の介入を提供した。 介入の結果,介入群においてのみ,主体的価値の測度における「価値の明確化とコミットメント」および学級風土(生徒間の親しさ)の得点が有意に増加した。社交不安および行動問題については,介入群と統制群のいずれにおいても,介入前後で有意な変化が認められなかった。これらの結果から,学校教育の一環としてACTを中学校で実施することは,中学生が主体的価値を明確化していくプロセスを後押しする効果を持つ可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定であった社交不安の減少効果を示すには至らなかったものの,介入をおこなわない統制群との比較を通して,学級単位Acceptance & Commitment Therapy(以下,ACT)の主体価値形成促進効果を立証することができた。ACTの効果検証を通して,主体価値の形成に重きを置く心理支援が思春期の学校教育に資する可能性があることを実証したという点で,本研究計画はおおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究では,ACTによる介入をおこなう群とおこなわない群を比較したため,介入のどのような要素が効果をもたらしたかが不明瞭であった。たとえば,介入の内容にかかわらず,日常の教科学習とは異なる特別な活動をクラス単位でおこなったということが,学級風土の改善,ひいては主体価値の形成につながった可能性は否めない。その場合,主体価値の形成に必ずしも焦点を当てない従来型の認知行動療法をおこなっても,同様の効果が得られる可能性がある。 そこで,平成30年度は,従来型の認知行動療法を実施する群とACTを実施する群を比較することで,主体価値の形成に焦点を当てることの利点を明らかにする。主な研究フィールドは,平成29年度までと同様の長野県岡谷市の公立小中学校とした上で,長野県長野市の公立小中学校での継続的な研究実施を実現できるよう連絡調整をおこなう。
|