2017 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫のナビゲーションにおける最適戦略の決定メカニズム
Publicly Offered Research
Project Area | Systems Science of Bio-navigation |
Project/Area Number |
17H05975
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
佐倉 緑 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (60421989)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 昆虫 / 経路積算 / 認知地図 / 偏光 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの動物は自らの方向と移動距離をリアルタイムでモニターする「経路積算型」のナビゲーションと場所記憶によって脳内に確立されたマップを用いる「認知地図型」のナビゲーションを状況に応じて使い分ける。このように複数のナビゲーション戦略を併用する能力は正確なナビゲーションの遂行に欠かせないが、実際に動物がどのように具現化しているのかは明らかでない。そこで本研究では、優れたナビゲーション能力を持ち、かつ行動の実験的操作が比較的容易であるミツバチを用い、経路積算型と認知地図型のナビゲーション戦略の併用による最適な行動発現のメカニズムの解明を目指している。 今年度はまず、ナビゲーション中の天空の偏光情報の利用について解析を行った。ミツバチに自然な空や人工的な偏光を見せた状態で餌場訓練を行うと、実際にトンネルから見えるe-ベクトル方向に定位するようになることが示された。これらの結果から、ミツバチは数百メートルほどの比較的長距離のナビゲーションを行う際には、飛行中に受容した偏光方向を記憶して自らの方向選択に用いることが示された。 ミツバチは非常に優れたナビゲーション能力をもつが、その脳内神経基盤を明らかにするための電気生理学的実験が難しいという欠点がある。そこで我々は、電気生理学的実験の実績のあるフタホシコオロギを用いて、ナビゲーション研究の実験系を立ち上げる試みもすすめている。これまでに、モリスの水迷路学習を応用したアリーナ内での場所学習パラダイムを確立し、コオロギがランドマークや偏光などの視覚情報に基づいた場所記憶を形成することを確認した。今後、場所学習行動と脳内の神経活動の同時記録が可能となるような実験系への改良をすすめていく計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は当初に計画した野外での行動実験により、ミツバチが偏光情報を用いたナビゲーション、すなわち経路積算を発現する条件を見出すことができた。野外実験を行う期間が限られているため、ランドマークを利用したナビゲーションについては来年度行うこととなった一方で、当初の研究計画には入っていなかったコオロギを用いた場所記憶の実験系が確立しつつあることから、ほぼ当初の計画通りの成果が出ていると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
ミツバチを用いた実験系では、引き続きトンネルを用いた野外実験と室内での飛行実験をすすめ、ランドマーク学習と偏光学習それぞれが発現する条件の検討を行い、ミツバチの採餌飛行におけるナビゲーション戦略を明らかにしてゆく。 さらに、コオロギを用いた場所学習パラダイムについても、実験装置の改良・実装を実現し、コオロギの視覚情報を用いた空間認識の特性について詳細に解析し、場所学習行動と脳内の神経活動との同時記録を目指す。
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