2017 Fiscal Year Annual Research Report
精密定量プロテオミクスを用いたシグナル伝達の包括的解析
Publicly Offered Research
Project Area | Integrative understanding of biological signaling networks based on mathematical science |
Project/Area Number |
17H06011
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松本 雅記 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (60380531)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | プロテオミクス / シグナル伝達 / 絶対定量 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞運命決定・増殖などの本質的な生命現象は細胞外刺激が引き起こす細胞内シグナル伝達によって規定されている。これまでシグナル伝達に関与するタンパク質が多数同定され、それらの間で起きる相互作用やリン酸化反応を介してシグナル伝達経路が形成されていることが示されている。一方で、同一シグナル経路が刺激の種類や強さによって異なるアウトプットを生み出す機構などはほとんど不明である。近年、シグナル伝達を数理モデルに落とし込んで理解する試みがなされているが、シグナル伝達因子の濃度情報や網羅的な飜訳後修飾のダイナミクスデータの不足が大きな障害となっている。本研究では独自に開発してきたタンパク質精密定量法iMPAQT法を応用し、細胞内シグナル伝達ネットワークにおけるタンパク質発現絶対量計測やネットワーク動態(リン酸化や相互作用の変化)計測に応用し、シグナル伝達の特異性や多様性を生み出す動作原理の解明を目指す。本年度は、実際にiMPAQTを用いて、いくつかの細胞株を用いてErb経路など主要なシグナル伝達経路の構成因子の絶対定量を実施した。その過程でiMPAQT法の拡張性や利便性を向上させる必要性が生じたことから、質量タグを付加するための安定同位体標識法の見直しや、内部標準調製を大量かつ安価に行うための技術開発を行った。これにより、任意のタンパク質セットに対するアッセイの構築と継続的な計測が可能なシステムを構築することができた。また、リン酸化ペプチドの計測メソッドもiMPAQTプラットフォームへ導入することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は以下の3つの項目について研究を実施した。 1)シグナル伝達経路の絶対量計測:数種類のがん細胞株を対象にシグナル伝達分子を対象とした絶対量計測を試みた。多くのシグナル伝達系の構成要素を検出することが可能であり、シグナル伝達経路の構造的特徴を定量化することが可能であった。2)iMPAQT法の改良:上述したように、細胞内シグナル伝達経路の構造を定量的に把握することができたが、より広範囲でのタンパク質の計測に拡張するためには,現行のiMPAQTではその拡張性や利便性が十分ではなく、iMPAQTを改良することを検討した。iMPAQT法はmTRAQ試薬を用いた質量タグを導入しているが、これを安定同位体標識アミノ酸の導入に変更することにした。そのため、新規に安定同位体標識アミノ酸存在下で組換えタンパク質を作製し、質量分析による情報取得を実施した。さらに、高効率かつ低コストで安定同位体標識ペプチド評品を得るための新規手法であるFlexible and Multiplexed Quantification Tag Code (FMQTAC)を開発した。また修飾部位を含むペプチドを定量することで修飾イベントを逆モニターする系を構築した。3)タンパク質のリン酸化定量解析:これまでに既に30,000以上のリン酸化部位を同定しデータベース化している。これらのリン酸化ペプチド情報をiMPAQTに適用し、様々な刺激に応答するリン酸化変動を計測するための計測メソッドを構築した。また、より微量のタンパク質量でリン酸化ペプチドの精製と解析が可能な手法の開発を行った。さらに、MS inclusion listや保持時間アライメントなどを利用することで、従来の手法よりハイスルーップットかつ安定にリン酸化の定量解析を可能とする新規解析法を開発中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、上記したFMQTACを内部標準として用いたiMPAQTを駆使して、より広範囲なシグナル伝達経路の絶対定量を実施するとともに、以下のような計画にそって研究を展開する。 1)相互作用情報によるパスウェイ・モデルの拡張:重要な細胞内シグナル因子(例:アダプター分子やキナーゼ分子)を免疫沈降して結合タンパク質の同定を行う。特異的抗体が存在するものは内在性タンパク質の免疫沈降を行い、抗体が存在しない場合は目的タンパク質にゲノム編集を利用したエピトープタグ挿入を実施する。新規結合タンパク質及び既知の結合タンパク質に関して情報基盤定量法によって、刺激依存的な結合変化を計測する。本実験には多サンプルに対して多くの免疫沈降実験を精密に行う必要があるので、次世代多軸ロボットを用いた全自動免疫沈降法を利用する。 2)絶対量情報を用いたパスウェイ構造決定:既知パスウェイ情報に、絶対量情報、相互作用情報を統合し静的パスウェイ構造の決定・拡張を行う。さらに、刺激依存的なリン酸化や相互作用の変化を重ね合わせることで動的なパスウェイ構造を明らかとする。さらに、パスウェイ構成要素のノックダウンやキナーゼ阻害剤等による撹乱を与えた際のパスウェイの挙動を調べることでパスウェイ・モデルの検証を行う。
|
Research Products
(7 results)