2017 Fiscal Year Annual Research Report
1細胞ダイナミクスと相空間モデルによる情報処理ネットワーク解析法の開発
Publicly Offered Research
Project Area | Integrative understanding of biological signaling networks based on mathematical science |
Project/Area Number |
17H06021
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
佐甲 靖志 国立研究開発法人理化学研究所, 佐甲細胞情報研究室, 主任研究員 (20215700)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 1細胞計測 / 情報伝達 / 受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
単一細胞の反応ダイナミクスに基づいて細胞内情報処理反応ネットワークを逆行分析し、その動態を数理的に再現・理解・予測する方法を開発している。複数・並列の単一細胞反応動態の実測値が持つ豊富な情報から、反応要素間のネットワークを統計的に推定して、「実効的に最小・充分の数理モデル」を作ることが目標である。 本年度はネットワーク推定のアルゴリズム開発と検証を行った。我々の方法では、反応ダイナミクスを連立常微分方程式で記述された反応ネットワークから、観測モデルに従って確率的に計測データが現れてくるとする、いわゆる相空間モデルで記述し、複数細胞から得られた時系列データに基づいて、粒子フィルターとEMアルゴリズムを用いて最尤ネット枠構造とパラメータ値の推定を同時に行う。3成分の振動的ダイナミクスを示す14パラメータのネットワークにノイズを加えたシミュレーションで、仮想的な10細胞の単一細胞計測データを作成し、我々の方法で推定を行った。制御関係はHill関数で与えた。3成分の間に可能な正・負全ての制御関係を含む冗長なネットワークから出発し、40回程度の繰り返し計算で、正確な制御構造と充分正確なパラメータ値に到達することができた。さらに、2成分の振動的ネットワークのシミュレーション結果を、3成分の冗長なネットワークから出発し、L1正則化の手法を用いて余分な反応要素を削除しつつ推定を行い、正確な2成分ネットワークと充分正確なパラメータ値を推定することにも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画は、 単一細胞内反応の多成分・複数時系列データから、成分間を繋ぐ実効的反応ネットワークの構造と反応パラメータを推定する方法を開発することであった。計算アルゴリズム開発は終了し、上述のように計算機実験で3成分の非線形反応ネットワークを正しく推定することに成功した。小さなネットワークであれば、冗長なモデルから出発して、経験的な過程に依らず、正しい推定が可能であることも示された。以上の結果を論文として発表した(Shindo et al. 2018)。従って、研究計画の大部分は無事に達成できたと言える。 人工的な遺伝子制御回路の実験データからネットワーク推定を行うことも計画していた。先人の作成した振動を示す大腸菌内遺伝子発現回路を改変し、2成分振動を安定に計測することにも成功したが、ダイナミクスを解析したところ、先行研究のモデルでは記述不可能な振動現象であり、当初予定した我々のアルゴリズム検証には原理的に使えないことが明らかになった。これは全く予想外の結果であり、本研究の目的からははずれるが、合成生物学的には興味深く、別のプロジェクトとして研究を継続している。
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Strategy for Future Research Activity |
アルゴリズム開発とシミュレーションによる検証は終了したので、次年度は当初計画の通り、ErbB-RAS-MAPK回路の解析に取り組む。単一細胞でMAPK回路の上・下流を同時計測することには成功しており、計測データを蓄積中である。その後、ネットワーク推定計算を開始する。
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