2017 Fiscal Year Annual Research Report
大脳皮質局所回路に学ぶ新しいアーキテクチャと学習モデルの構築
Publicly Offered Research
Project Area | Correspondence and Fusion of Artificial Intelligence and Brain Science |
Project/Area Number |
17H06036
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
深井 朋樹 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, チームリーダ (40218871)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 樹状突起計算 / 学習と記憶 / 自発発火 / ベイズ推定 / 合目的行動 / リザーバ計算 / スパイク時間 / 構造的シナプス可塑性 |
Outline of Annual Research Achievements |
時系列に含まれる繰り返し構造(チャンク構造)を学習するリザーバ計算を考案した(Asabuki, Hiratani and Fukai, bioRxiv 215392: under review)。機能的に対等な二つのリザーバー計算機を用意し、相手の出力を教師信号に用いることで、回路全体で教師無し学習をするリザーバ計算の枠組みを構築した。文字列や画像の時系列からチャンクを学習することに成功した。入力の構造自体ではなく、入力への応答を予測することにより、入力の規則的な構造のみがリカレント神経回路の動態の低次元構造に反映されることがわかった。このシステムは大脳皮質の両半球と基底核による情報処理を模倣している可能性がある。 樹状突起による正準相関解析を実装したニューロンモデルを構築し、自発発火を利用して時系列情報を素早く記憶するリカレント回路の定式化に成功した(Haga and Fukai, bioRxiv, 165613: under review)。また正準相関モデルとは別に、樹状突起上のシナプス結合の冗長性を用いて、サンプリングに基づくベイズ推定を行う粒子フィルターを実装した。また構造可塑性を加味することにより、ほぼ最適に近い推定結果が得られることを証明した(Hiratani and Fukai, bioRxiv 127407: under revision)。 海馬神経回路が逆行性時系列自発発火により、報酬を得るという目的に適った経路学習を行うメカニズムを提案した(Haga and Fukai, bioRxiv 217422: under revision)。このモデルは記憶に関して実験的に検証可能な複数の予言を生み、また経験した経路を組み合わせて未経験の経路を見出す脳の働きを説明する。これにより、推論などの神経基盤が与えられる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
チャンク学習に関して理論的メカニズムを明らかにできた。従来の階層的時系列処理のモデルでは、入力時系列に見られる要素間の非一様性な遷移確率を利用して、チャンク構造を学習するものが大半である。しかしヒトの脳では、遷移確率が一様であっても“時間的コミュニティ”を検出することで学習が可能である。提案システムは入力自体ではなく、入力に対する自分自身の応答を予測することで、このような検出を可能にした。これは階層的時系列処理に対して、全く新しい動的メカニズムを与える。 海馬の逆行性時系列発火のモデルは、報酬探索行動の学習に関する新しい回路メカニズムを与える。海馬CA3の時系列学習では、CA1における非対称STDPの発見から、時間非対称なSTDPが利用されてきた。ところが現実はCA3のSTDPは時間対称であることがわかり、場所細胞の形成メカニズムの理解は振り出しに戻った感があった。我々は時系列記憶の固定化はforward replayではなくむしろreverse replayの最中に起こるという仮説を立て、短期可塑性による対称STDPの修飾効果を仮定することで、それが可能になることを明らかにした。視覚野ではそのような修飾が知られている。このモデルは海馬の可塑性や経路学習に関するさまざまな実験的知見を統合して、海馬の合目的的行動の学習原理を明らかにした。また人工知能への様々な応用を考えることができる。 他方、スパイクを利用する神経回路計算はあまり進まなかった。一つの理由は、相互結合神経回路におけるスパイクを用いる学習が技術的に困難なためである。ただし他の一つの理由は、研究予定で述べるような有望なモデルが見出されたために(このモデルはスパイクと発火率をハイブリッドに用いる)、その問題に注力したためである。全体の総括としては、研究は当初の想定を上回って進捗したものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
階層的時系列の学習はほとんど全ての高次機能に関係するだけでなく、応用上も重要である。そこで今後も引き続き研究を発展させる。リザーバ計算を用いる手法は多様な入力時系列のチャンクを検出するが、回路構造に制約がある。最近、樹状突起がシナプス可塑性をもつニューロンモデルで、多彩な入力時系列の解析が可能なことがわかってきた。多様なチャンク構造の学習に加え、ICAでは分離不可能な、相関をもつ混合信号からの信号分離などである。従来にない原理として条件付きエントロピー最小化を提案し、それに基づき新しい特徴検出のメカニズムを発展させる。 またこのモデルの神経科学への応用として、大規模神経集団(~数千ニューロン)の活動データからのセルアセンブリの検出を試みる。100個程度の細胞集団を含む人工スパイクデータでは既に成功している。機械学習の手法と異なり、生物学的なシナプス可塑性ルールでは、大規模データの学習に於いても負荷が少ないことが期待される。共同研究者から実験データの提供を受ける予定である。さらに単一混合信号から複数の信号源を分離することを試みる。 スパイク情報表現とSTDPを用いて予測符号化を実装する階層的神経回路モデルを構築中であるが、このモデルを完成させる。樹状突起をもつニューロンモデルで実装された学習原理とSTDPの関係を解明する。またこのモデルを予測符号化の問題に適用するために、適切なリカレント結合の学習ルールについて検討を開始する。さらにマクロスコピックな領野間連絡を実装する全脳モデルを構築し、多様な時間尺度をもつ入力に基づき、脳が階層的に記憶学習する過程を調べる。 記憶に於いて興奮性と抑制性のシナプス入力のバランスが果たす機能的役割を、連想記憶モデルを用いて検討する。統計物理の手法を用い、海馬CA3の対称STDPに基づく相関型時系列記憶のメカニズムを、数理的に理解する。
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