2018 Fiscal Year Annual Research Report
中国文明構築に関与した水生作物の人為淘汰に関する研究
Publicly Offered Research
Project Area | Rice Farming and Chinese Civilization : Renovation of Integrated Studies of Rice-based Civilizations. |
Project/Area Number |
18H04173
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
山岸 洋貴 弘前大学, 農学生命科学部, 助教 (40576196)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 人為淘汰 / ヒシ属植物 / 系統地理 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国では、稲作文明黎明期に稲と共に様々な植物が食料資源として利用されてきた。その1つに本研究で注目しているヒシ属植物がある。ヒシ属植物は水生植物で稲が生育するような環境に同所的に生育し、補足的な食料資源として有用である。現在も中国を中心に東アジアの多くの地域ではヒシ属植物の種子が食されている。これらのほとんどは作物として栽培されている栽培種のトウビシの種子であり、野生種に比べて可食部が大きく、作物として利用しやすい形態をしている。一方、稲作文明の遺跡から出土するヒシ属植物の種子は小さく、現在の野生種と形態が良く近似している。このことから、稲作黎明期にはトウビシはまだ存在しておらず、それ以降に人為的淘汰などを受けて現在の形態へと変化したものと推測される。本研究ではトウビシがどのように進化したのか遺伝学的視点から明らかにし、稲作文明の発達の中で作物の人為淘汰がどのように行われてきたかについて議論すべく情報を得るものである。 本年度はトウビシがヒシ属植物の中で系統的にどのような位置にあるのかを明らかにする為、葉緑体DNAマーカーを利用した解析を試みた。実験手法の確立を行うためにも主に試料の採集が容易な日本産の野生種と栽培種を約30集団から採取し、これらの試料を利用して分子系統解析を行った。結果、トウビシは日本産種の中では野生種オニビシと遺伝的に近似しており、このことから中国においても同様にオニビシを改良した可能性が示された。また同時にこれまで詳細が明らかではなかった日本国内におけるヒシ属植物の遺伝構造についてもハプロタイプネットワーク解析などから明らかにした。さらに中国において現地調査を行い、トウビシの果実サイズの多様性や他の野生種について調査を行い、試料収集や解析の協力者となる現地研究者との連絡協力体制の構築を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
遺伝解析など順調に進んでいるが、中国における協力者との調査に関する交渉の遅延から中国における試料採集などが若干予定より遅延している。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 中国の栽培ヒシと野生種の系統関係の解明、栽培ヒシの多様性解析-これまでリファレンスとして重要な役割を担う日本産ヒシを利用した遺伝解析を行い、遺伝構造を明らかすることが出来た。平成31(2019年度)年度はそのノウハウを中国産種の解析にも利用し、栽培種のヒシの起源について明らかにする。平成30年度中に既にいくつかについては予備調査を行っており、さらに採集地点を増やすとともに中国の研究者の協力を得てサンプル数を確保し、より詳細な系統解析から栽培ヒシの起源の解明を目指す。また栽培化の発祥地域を探る為、栽培ヒシの遺伝的多様性の高い地域を明らかにし、栽培化の発祥地について考察する。これまでの葉緑体DNA領域を利用した遺伝マーカーでは、種内の多様性解析には限界があるため、より情報量の多い領域を利用したマーカーの開発を試み、詳細な解析から遺伝的多様性の高い地域を明らかにする。 2. 栽培ヒシの形状による評価-昨年度に引き続き、遺跡で発掘された古代ヒシとの比較対象とするためにも野生種と栽培種の形状比較を行う。昨年度は武漢を中心に一部の栽培型を採取しており、形状計測を行っている。今年度は更に網羅的な調査を行い、範囲にわたり実態を把握する為に江蘇省、浙江省、江南省、湖北省からも採取する予定である。計測後、遺跡から発掘された古代ヒシとの比較検討を行い、その相違点、変化プロセスを明らかにする。 3.ヒシ栽培化行程の推定-稲作文明の中で補完的な食料資源であった水生植物のヒシ属植物がいつ、どこで、どのように栽培化されてきたのかを研究結果をもとに推定し、水生植物の人為淘汰過程について総合的な統括を行う。
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