2018 Fiscal Year Annual Research Report
Philosophy and cognitive science on facial expressions as a clue to the other's mind
Publicly Offered Research
Project Area | Construction of the Face-Body studies in transcultural conditions |
Project/Area Number |
18H04206
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
長滝 祥司 中京大学, 国際教養学部, 教授 (40288436)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 他者理解 / 身体動作 / 表情 / 道徳性帰属 / 怒り表出傾向 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の目的は、哲学的・概念的な分析を理論的背景として、実証的方法によって得られたデータを用いながら、人間が行っている無意識的な表情表出や他者理解、他者への道徳帰属のメカニズムの解明をめざすことである。 この目的を達成するために、哲学的身体論、現象学、心の哲学などの方法論と、心理学や脳科学の実証研究を用いる方法論の二つの側面から研究を行ってきた。今年度は、哲学的・概念的な研究として、他者の心的状態にアクセスする複数のルートを整理、検討し、本実証研究に関連するもの(他者の表情や身体動作を観察することによる準三人称的記述、他者の表情や身体動作を観察する際の観察者の脳状態)に焦点をあてて理論構築を行った。実証研究については、被験者に、Anger-Outの心的傾向性が強い者と弱い者の創作活動中の映像を視聴させ、各映像に登場する者がどちらの心的傾向性をもっているかを直感的に判断してもらい、なぜその判断に至ったかを事後に言葉で表現してもらい、その言語データを分析した。同時に、心的傾向性を判断する際の観察者の脳波を測定し、他者理解の指標とされるμリズム抑制を確認した。また人間は、他者の表情等を読み取るとともに、その他者に道徳性を帰属させることがある。本課題では、道徳性帰属を検証した。 実証研究について、具体的には、被験者15名(作業療法士6名と比較群9名)を選定し、映像中の作業者が、Anger-Out傾向をもつか否かを判断してもらった。映像視聴時に脳波測定を行い、その後に再度映像を視聴して判断の根拠になった身体動作について述べてもらった。脳波データでは、ベース課題時と判断の根拠にした身体動作を視聴時の間で平均電流値の差の検定を行った。言語データは先行研究に従い10項目にカテゴリ分類した。また、Anger-Out傾向をもつと判定した映像の作業者を対象に道徳帰属課題をしてもらった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の特色は①哲学的・概念的な研究と、②科学的・実証的研究を有機的に統合することによって、人間が行っている無意識的な表情表出や他者理解や他者に対する道徳帰属のメカニズムの解明を目指すところにある。 本年度は、①については、第51回科学哲学会シンポジウムで「〈深/表〉層としての〈心-自己〉:感情・表情・身体動作」というタイトルで、SPM 20th International Conferenceで"The Self as What Appears on the Surface: Emotion and Expression"というタイトルで成果発表を行った。②については、実験パラダイムを構築してデータ収集を進めてきた。データについては当面の目標の半分程度を収集することができた。②の他者に関する道徳帰属のメカニズムについては、人間と人間、人間とロボットとのインタラクション実験(別の研究課題によるもの)に本課題に関連する実験を組み込むことで、解明の手がかりをつかんだ。この成果は、国際学会Inteaccion2018で"On The Robot As A Moral Agent"というタイトルで発表した。 このように、研究計画に即した成果として着実に発表していることが、「おおむね順調に進展している」とした理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題は、理論構築面では、人間経験についての量的データと記述的データについての総合的な理解を図ることで、数量的なデータ分析に偏向する自然科学の方法論的な不備を補うことを目指している。これは、認知科学(実験科学)の方法を自然主義、科学主義の名のもとに単に批判することではない。本課題の特色は、現象学や心の哲学を単に自然化したり、認知科学(実験科学)の不備のみを指摘したりするのではなく、両者の方法論が相互補完的なものとなるよう再構築するという点にある。これを達成するために、認知科学における身体論を媒介にして、現象学的他者論と分析系の心の哲学の他者論という相反する立場を統合しつつ理論構築を行う。 実証研究面では、現在までのところ、被験者15名(作業療法士6名と比較対象者9名)によって実験を遂行しデータを収集した。今後、両群ともに15名、計30名のデータ収集を目指し、心的傾向性推測時の脳活動と、根拠とした身体動作の抽出を通して心的傾向性の思考過程を明らかにする。そのために、多くの作業療法士が勤務する京都長岡京市心療内科・精神科長岡ヘルスケアセンター(長岡病院)に実験遂行の許可をとり、病院内の倫理審査も終えて、院内の協力者も得られた。6月末をめどにデータ収集については目標の成果をあげる計画である。 理論面、実証面に関わる上記の研究を総合することによって、人間の心と身体に関する哲学的記述学と実験科学とを相互補完する理論の構築を目指す。
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Research Products
(3 results)