2018 Fiscal Year Annual Research Report
中国残留日本人をめぐる「正義ある和解」の学的探求
Publicly Offered Research
Project Area | Creation of the study of reconciliation |
Project/Area Number |
18H04209
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
浅野 慎一 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (40202593)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 中国残留日本人 / ポスト・コロニアリズム / 東アジア / 越境的社会圏 / ディアスポラ / 和解学 |
Outline of Annual Research Achievements |
①新学術領域である「和解学-正義ある和解を求めて」について一層理解を深め、その中で残留日本人問題をさらに明確に位置づけるための理論的検討を行った。具体的には歴史学・政治学・社会学・人類学・哲学等の諸分野における和解学・移行期正義論等の知見を総括的に検討するとともに、この領域の新機軸の開拓においてポスト・コロニアリズム、及び、ディアスポラの知見が重要であるとの考察に至り、これを当該新学術領域のシンポジウムにおいて報告した。また当該新学術領域の総括会議に出席し、各種議論をふまえ、「市民生活班」への配属が決定された。 ②約450名(日本在住者約350名、中国在住者約100名)の残留日本人、及び、その家族からのインタビュー調査結果の正鵠な翻訳(日本語訳)を概ね完了した。また約250名分の結果について、第一次的な個別事例の分析を概ね終了した。 ③残留日本人と接点をもつ関係者(市民活動家、法律実務家等)へのインタビュー調査を首都圏、及び、近畿圏で実施した。 ④残留日本人にとっての「和解」の契機・社会的条件の一つとしての夜間中学校に関する歴史資料を追加収集・整理した。併せて1947年から2018年に至る全国の夜間中学校とその生徒に関する数万点の史料から、残留日本人をめぐる「和解の想像」の契機を示すものの抽出作業を進めた。 ⑤研究成果の中間発表として研究成果発表を行った。また早稲田大学政治経済学術院・東京大学教養部・放送大学静岡学習センター等で本研究課題に直接関連する講義を行い、九州弁護士連合会シンポジウムで基調講演を行った。HP「尊厳ある和解を求めて」を開設し、本研究課題に関する知見を発信した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画以上に進展した点は、①新学術領域についての理論的検討において、ポスト・コロニアリズムの認知枠の延長上にディアスポラの観点が残留日本人の「正義ある和解」の可能性の模索に重要な意味をもつことを明確にし得たこと、②夜間中学の史料整理に際し、従来未入手であった史料の追加入手も含め、当初計画以上に成果が得られたこと、③当該新学術領域の市民運動班に配属されたことに伴い、当初は予定していなかった非当事者・市民運動が歴史的和解に果たす役割とそこでの課題について考察を深め、シンポジウムで報告し得たこと、④研究の中間報告として、当初予定していた諸学会での報告に加え、諸大学で関連研究者を含む人々への講義、九州弁護士連合会主催のシンポジウムでの基調講演、HPでの情報発信等を実施し、学術的・実践的な討論を深めることができたこと、である。 一方、当初計画に比し、やや遅れた点は、①インテンシヴなインタビュー調査の結果について、個別事例の第一次的分析が約250名分にとどまり、約200名分のそれを次年度に回さざるを得なくなったこと、②数万点に及ぶ夜間中学校関連史料の中から残留日本人をめぐる「正義ある和解」に直接・間接に関連する史料の抽出作業を完了するに至らなかったこと、である。 概ね当初計画通りに進展した点は、①本年度の計画の中核部分をなすインテンシヴなインタビュー調査結果の正鵠な日本語訳が概ね完了したことである。 総括的にいえば、おおむね順調に進展している、または若干当初計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は最終年度であるので、研究全体を総括する。 そのためにはまず第1に、約200名分のインタビュー調査結果について個別事例ごとの第一次的分析をできるだけ速やかに完了する。その後、直ちにインタビュー・データを、さらに詳細かつ緻密に分析・考察し、実質的な研究成果へと繋げる。 第2に、残留日本人と接点をもつ関係者(市民活動家、法律実務家、政策担当者)へのインタビュー調査を実施する。申請者のこれまでの調査研究において、①東京、②兵庫・大阪・京都・福岡・札幌等の大都市部、そして③高知・長野等の地方で、残留日本人の地域社会への定着の仕方、支援者との関係等がかなり異なっている。これをふまえ、残留日本人自身の側が特に積極的・能動的に地域社会での「和解」を求めて行動している地域を対象として、インタビュー調査を実施する。 第3に、学術論文・学会報告等の形で研究成果を発信する。学会での発表は少なくとも2回、学術論文も2本以上は発表する。併せて、初年度に開設したHP「尊厳ある和解を求めて」において継続的・日常的に研究的知見を発信する。 第4に、新学術領域「和解学:正義ある和解を求めて」全体への貢献を明確にする。具体的には、web事典である「和解学事典」での「中国残留日本人」の項目執筆、研究会等での発表を予定する。
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