2018 Fiscal Year Annual Research Report
トポロジカルファンデルワールス結晶ナノ試料における量子輸送現象開拓
Publicly Offered Research
Project Area | Frontiers of materials science spun from topology |
Project/Area Number |
18H04216
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井手上 敏也 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90757014)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ファンデルワールス結晶 / トポロジカル物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
新規トポロジカルファンデルワールス結晶および候補物質の劈開ナノ試料デバイスを作製し、電気伝導測定を行うことで、特徴的輸送現象の探索に取り組んだ。 以前から研究している、遷移金属カルコゲナイドナノチューブにおける電界誘起超伝導に関して、超伝導転移温度の半径依存性を明らかにし論文にまとめた。 また、MoTe2の劈開試料において、高温相の非極性構造から低温相の極性構造(トポロジカルワイル半金属相)への転移が膜厚によって制御できることを明らかにし、薄膜化によるトポロジカル相転移制御の可能性を見出した。加えて、低温の極性構造相において、電流の2次の非線形伝導現象である非相反電荷輸送現象(空間反転対称性の破れた結晶における特徴的整流性)の観測に成功した。この非相反電荷輸送応答は、相転移温度近傍で明瞭なヒステリシスを示しており、相転移の昇温・降温過程を利用した極性構造ドメインや整流性の制御が可能であることが示唆された。 さらに、この非相反電荷輸送現象がトポロジカル超伝導物質候補物質である3回対称結晶PbTaSe2においても発現することを見出した。空間反転対称性の破れた結晶における非相反超伝導輸送現象は、現在までに少数の限られた低次元系において報告がなされているが、本成果は3次元結晶における非相反超伝導輸送現象の初めての報告である。非相反応答は電流の方位に依存して縦電圧または横電圧として観測され、観測された2次の非線形伝導が確かに結晶の3回対称性に由来していることを明らかにした。観測された非相反応答は超伝導ボルテックスの非対称なピニングポテンシャルに起因したラチェット運動を反映していると考えられる。非相反応答の大きさは過去に報告されている低次元超伝導物質よりも大きく、3次元結晶における強いピニングによって整流性が巨大化し得ることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
遷移金属カルコゲナイドナノチューブにおける電界誘起超伝導に関して、超伝導転移温度が半径の逆数に対して線形に変化することを発見した。この結果は、従来のカーボンナノチューブ超伝導を想定した理論モデルにおいて議論されていた超伝導転移温度の半径依存性とは逆の傾向であり、ナノチューブ超伝導における極めて有意義な新しい知見である。 また、MoTe2の劈開試料において、高温相の非極性構造から低温相の極性構造の転移が膜厚によって制御できることを明らかにし、薄膜化によるトポロジカル相転移制御の可能性を見出した。この成果は、今までのバルクトポロジカル物質を用いた研究には見られないファンデルワールス結晶特有の性質を明らかにした報告例であり、ファンデルワールス結晶の劈開・薄膜化が応用に向けたデバイス作製のみならず、トポロジカル相制御にも極めて有効であることを示した重要な結果であると言える。 さらに、過去に研究代表者が発見した、結晶対称性を反映した特有の整流特性である、非相反導輸送現象が、トポロジカル超伝導候補物質であるPbTaSe2においても発現し、加えて、非相反応答の大きさが過去に報告してきた例に比べて巨大であることを見出した。非相反導輸送現象は、物質の特徴的電子構造や超伝導状態を反映した現象として、近年その微視的機構の理解が急速に進んできているが、本研究成果は非相反電荷輸送がトポロジカル物質の電子状態の良いプローブにもなり得ることを示しており、想定以上の成果である。今後現象のさらなる理解と拡張、進展が望まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
ワイル半金属であるMoTe2やトポロジカル超伝導候補物質であるPbTsSe2といった個々のファンデルワールス結晶に関して、昨年度に得られた成果を論文として発表する。特に、MoTe2の電子状態や極性ドメイン、PbTsSe2の超伝導ボルテックスダイナミクスが2次の非線形磁気抵抗に与える影響に関しての知見をまとめる。 また、ファンデルワールス結晶界面における特徴的な輸送現象の開拓に取り組む。様々なファンデルワールス結晶を用いて新しいヘテロ界面を作製することで、界面の電子状態や対称性を制御し、トポロジカル量子相の制御や界面・接合系における新規トポロジカル輸送現象の探索を行う。 具体的には、ディラック半金属であるグラフェンや量子スピンホール絶縁体(2次元トポロジカル絶縁体)であるWTe2といったトポロジカルファンデルワールス結晶と、近年新しく発見されてきた磁性ファンデルワールス結晶や結晶対称性の低いファンデルワールス結晶の界面を作製することにより、時間反転対称性や空間反転対称性の破れた特異なトポロジカル半金属相が実現できると期待される。 これら新奇ヘテロ界面における電気伝導、磁気抵抗等を詳細に測定することによって、単独のファンデルワールス結晶との違いを明らかにし、ファンデルワールスヘテロ界面を用いた界面の電子状態・対称性制御の指針を見出すと同時に、新奇トポロジカル半金属相に特有の輸送現象の観測を試みる。加えて、光応答(フォトルミネセンスや第二高調波発生等の光学特性や光電流応答・光伝導度といった光照射下輸送現象)にも着目し、新奇ヘテロ界面において、光応答が単独のファンデルワールス結晶のときと比べてどのように変調されるかを調べることにより、ヘテロ界面で実現している新奇2次元電子系の特徴的光応答の探索を行う。
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Research Products
(12 results)