2018 Fiscal Year Annual Research Report
半導体二次元電子系と超伝導体の接合における新奇輸送現象の探索と解明
Publicly Offered Research
Project Area | Frontiers of materials science spun from topology |
Project/Area Number |
18H04218
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中村 壮智 東京大学, 物性研究所, 助教 (50636503)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 超伝導接合 / 二次元電子系 / 半導体 / スピン軌道相互作用 / スピンホール効果 / ジョセフソン効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではInAsの二次元電子系を用いた超伝導接合に面内磁場を加えることで超伝導体/強磁性体/超伝導体接合で見られるような0-π転移やスピン三重項超伝導現象を観測を目指している。 本年はまずInAs量子井戸を持つヘテロ基板をホールバーに加工し、その両側面から超伝導電極を接合することで超伝導接合を作成し、その超伝導特性の磁場依存性を調べた。過去に面内から面直方向に30度傾けた磁場下でπ-SQUIDのような振る舞いを観測していたが、これを磁場方向を様々な方向に変えて詳細に調べたところ、超伝導電極の接合近傍に磁束がピニングされることで電極内の超伝導位相が空間的に変化しπ-SQUIDのような振る舞いを生じていることを明らかにした。また磁場を0.1 mrad以下の精度で面内方向に合わせ臨界電流の磁場依存性を調べたところ、磁場によって臨界電流は単調に減少していくものの、途中でキンクが生じその後緩やかに減少することを発見した。これはInAs内に生じた近接効果超伝導のスピン一重項成分が破壊され、スピン三重項成分が残ったものだと予想される。 また、超伝導電流とは独立に、InAsのホールバー内に電流を流すことで、ジョセフソン効果がどのように変調されるのかを調べた。その結果、超伝導電流に直交する電流によって臨界電流が抑制され、定量的な計算から、この抑制は発熱やフェルミ分布関数の分裂などの過去に知られている抑制とは異なる起源をもつことを明らかにした。定性的な議論ではあるが、臨界電流抑制の仮説としてスピンホール効果とNb/InAs界面におけるフリーデル振動のモデルを提唱した。また、電流ではなく純スピン流を接合に注入することでジョセフソン効果がどのように変調されるかを調べた。その結果驚くべきことに直交電流よりも強く抑制が生じることを発見した。この起源については現在議論を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画時の予定はNb/InAs/Nb超伝導接合において面内磁場と面直磁場を独立に印加できる装置を開発し、面内磁場によるπ-SQUID的な振る舞いの起源を明らかにすることであったが、予定通り装置の改造を行い三次元方向に磁場方向を制御することができるようになり、これを用いた測定から面内磁場によるπ-SQUID的な振る舞いの起源を明らかにすることができた。計画時の予想とは異なりπ接合状態ではなく磁束のピニングが起源であったため、計画を少し変更し、31年度に行う予定であったナノ構造によるジョセフソン効果の変調について研究を進めた。その結果、非常に興味深い新しい現象を発見することができた。以上のことから多少の変更はあるものの、計画段階で予定したものに相当する成果を得られていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究はおおよそ計画時の予定通りに進める予定である。まずはナノ構造によるスピン偏極、特に量子ポイントコンタクトによるスピン偏極によってどのようにジョセフソン効果が変調されるのかを調べる。スピン軌道相互作用のある系の量子ポイントコンタクト(QPC)では、その伝導度が量子化伝導度Gqと同じ、あるいは半分の時にその近傍に局所的なスピン偏極を生じさせる。これはQPCに電流が流れていない場合でも生じるため、ジョセフソン臨界電流がQPCの伝導度のみに依存して変化することが考えられる。また面内に磁場を加えることで、InAs内に近接効果トポロジカル超伝導を生じさせ、QPCを用いてトンネルコンダクタンスを測定してマヨラナフェルミオンの存在を確認し、そこに電流を加えることでトポロジカル超伝導と非トポロジカル超伝導でのジョセフソン効果の電流依存性、あるいはスピン流依存性を調べる。 次に、面内高磁場でのスピン三重項超伝導の存在を確かめる。研究実績で記したように現在すでにスピン三重項超伝導と予想されるキンク構造を観測している。これを確かめるため、イオン液体によってゲート電圧を加えることでスピン軌道相互作用を変調し、このキンク構造の生じる磁場が変化するかどうかを調べる。また、現在は基板にInAsの量子井戸を用いているが、InGaAsを用いることで基板そのもののスピン軌道相互作用を変えることも試みる予定である。
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Research Products
(20 results)