2018 Fiscal Year Annual Research Report
アート錯体の精密制御によるヘテロ芳香環の開環と原子挿入
Publicly Offered Research
Project Area | Precise Formation of a Catalyst Having a Specified Field for Use in Extremely Difficult Substrate Conversion Reactions |
Project/Area Number |
18H04254
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
依光 英樹 京都大学, 理学研究科, 教授 (00372566)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アート錯体 / 銅 / シリル化 / ベンゾフラン / 開環 |
Outline of Annual Research Achievements |
アート錯体の精密制御によるヘテロ芳香環開裂法を探索した結果、銅触媒とジシラン反応剤、アルコキシド塩基から発生させたシリル銅種を鍵活性種として利用することで、ベンゾフランの開環を伴うシリル化が進行することを発見した。 銅触媒およびカリウムtert-ブトキシド存在下、ベンゾフランに対してtert-ブトキシ基をケイ素上に有するジシラン反応剤 (1,2-di-tert-butoxy-1,1,2,2,-tetramethyldisilane)を作用させたところ、開環シリル化体が得られた。触媒および溶媒の検討を行った結果、触媒としては塩化銅(I)、溶媒としてはTHF/ピリジン混合溶媒系が最適であり、目的物の開環シリル化体が高収率で得られた。本反応ではジシラン反応剤のケイ素上の置換基が重要である。例えば、ヘキサメチルジシランを用いた場合には目的物は全く得られず、原料が回収された。一方、tert-ブトキシ基の代わりにエトキシ基を有するジシランを用いた場合には複雑な混合物を与えた。 得られた最適条件下、各種ベンゾフランの開環シリル化を行った。アミノ基やハロ基が置換したベンゾフランを用いた場合にも効率よく反応は進行した。本反応はベンゾフラン骨格に対して選択的に進行し、単環式のフランやチオフェンも損なうことなく目的物を与えた。さらに、ナフトフランを用いた場合にも効率よく反応は進行した。 理論計算により反応機構の解析を行ったところ、1)反応はベンゾフランに対するシリル銅の付加と続くβ-酸素脱離を経て進行すること、2)β-酸素脱離の過程には銅アート種が介在することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的であるインドールの開環反応に向けて鋭意検討を行っていたものの、この反応はまだ達成されていない。一方で、この検討の途上で予期せぬシリル銅によるベンゾフランの開環シリル化反応の発見に至った。この開環シリル化反応は、有機合成上有用なアルケニルシランを合成する斬新な手法となっており、インドールの開環反応同様に興味深い。また、シリル化剤である1,2-di-tert-butoxy-1,1,2,2,-tetramethyldisilaneは、この発見を機に試薬会社から市販されることになり、この予期せぬ発見の社会的影響は大きい。さらに、ベンゾフランの開環反応に関する知見を蓄積していくことで、当初の目標であるインドールの開環につなげられる。インドールの開環に銅アート錯体の利用も視野に入れるなど、研究展開に広がりが出てきている。 以上の理由から、本研究課題は当初のアート錯体の精密制御によるアザボリンをはじめとする含窒素エキゾチックヘテロ環の合成法の開発に着実に向かっており、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
N-フェニルインドールの開環反応をモデル反応として、アート錯体触媒の精密制御による反応の効率化を図る。転位を伴った開環の鍵中間体であるアート錯体の配位子の設計が重要である。本研究では、遷移金属中心に電子を強力に押し込みつつもそれ自身は転位しない「キレート型ジカルボアニオン配位子」を設計・合成し、有機基の高効率かつ選択的な転位と開環を目指す。開環により生じるジアニオンをホウ素求電子剤で捕捉することで、ホウ素挿入を達成する。基質適用範囲の検討も行う。さらに、入手容易なπ拡張ピロール類を出発物質とするアザボリン含有大型π電子系分子の合成に挑戦する。また、吸収・発光スペクトルや酸化還元電位の測定を通じて、光・電子機能性材料としての応用可能性を探る。
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Research Products
(18 results)