2018 Fiscal Year Annual Research Report
高度に電子豊富な低スピン鉄反応場の構築と不活性結合の切断
Publicly Offered Research
Project Area | Precise Formation of a Catalyst Having a Specified Field for Use in Extremely Difficult Substrate Conversion Reactions |
Project/Area Number |
18H04280
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
中島 裕美子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究チーム長 (80462711)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | クロロシラン / 鉄(0)錯体 / 結合切断 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、鉄錯体触媒を用いた高効率分子変換反応の開発を最終目標とし、四座PNNP配位子の強い配位子場による低スピン状態安定化効果を利用して、新規鉄反応場のデザインに基づく反応開発に取り組んだ。四座PNNP配位子は、平面に構造規制された四つのσ供与性を示す配位座により金属中心を電子豊富に保ち、またその強い配位子場に起因して鉄錯体の低スピン状態を安定化する。このような配位子を用いれば、反磁性種として取り扱い可能で、極めて高い結合切断能を示す鉄錯体反応場が構築されるものと期待した。 2018年度は、PNNPに支持された窒素架橋鉄(0)錯体1の合成に成功した。錯体1は、常温常圧で一酸化炭素やフェニルヒドロシランとの配位子交換することを見出した。このことから、錯体1は、反応活性な配位不飽和鉄(0)種[Fe(PNNP)]の良い前駆体となることが示唆された。この性質を利用することで、錯体1がシランとシラノールの脱水素カップリング反応による選択的ヒドロシロキサン合成の良い触媒となることを見出した。反応性官能基であるSiH末端を有するヒドロシロキサン化合物は、シリコーンポリマーの精密合成における鍵原料として重要な化合物である。これまで、本反応には貴金属触媒を用いた例が2例報告されている。これに対し、錯体1は、触媒回転数 > 18,000回を達成するなど、従来の触媒系に比べて極めて高い反応性を示すことを見出した。 以上に加え、錯体1がクロロシランの強固なSi-Cl結合を切断することを見出した。本反応では、対応する酸化付加体であるクロロ(シリル)錯体2が定量的に得られた。本反応は、遷移金属錯体によるSi-Cl結合の酸化付加反応のwell-definedな例として世界で5例目であり、詳細な機構に興味が持たれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電子供与性のPNNP配位子を有する鉄(0)錯体という極度に電子飽和な反応場の構築に成功した。さらに本錯体系がシランのケイ素‐水素結合を活性化することを見出し、これを利用することでシランとシラノールの脱水素カップリング反応による選択的ヒドロシロキサン合成という本錯体系を活かした触媒反応を達成するに至った。また、合成した鉄(0)錯体は、クロロシランの強固なケイ素‐塩素結合切断反応にも応用可能であることが示された。このようなケイ素‐塩素結合の酸化的付加反応による切断は、金属錯体における強固な結合切断という種々の触媒反応において鍵となる重要素過程であることから学術的にも極めて興味深い。一方で、このようなケイ素ー塩素結合切断に関する機構解析に関する報告はこれまでに皆無と言って過言ではない。そこで、本年度は詳細な機構解析を行うべく理論計算を開始させた。以上を鑑みて、本年度の研究は計画通り順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度の成果に基づき、2019年度はPNNP配位子に支持された鉄(0)錯体を用いたクロロシランSi-Cl結合切断反応の機構解析に取り組む。金属錯体による酸化付加反応の機構は、協奏的機構、求核置換型機構、ラジカル機構の3つに大別される。以上の観点から、それぞれの反応機構が進行すると知られるモデル基質を用いて、PNNP鉄(0)錯体の結合切断能および特性を評価する。また、反応の速度論的解析を行うことで中間体の観測や、反応機構解明に取り組む。理論計算による機構解析をさらに進める。
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Research Products
(12 results)