2018 Fiscal Year Annual Research Report
強相関有機π-d電子結合系の電荷-スピン複合物性の解明と探索
Publicly Offered Research
Project Area | J-Physics: Physics of conductive multipole systems |
Project/Area Number |
18H04298
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
井口 敏 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (50431789)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 金属ー絶縁体転移 / 電荷秩序 / バンドフィリング / 電荷ースピン自由度 / πーd電子間相互作用 / 磁気誘電性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、複数のスピンやスピンー軌道相互作用等を通じて生じる新規な物性開拓の場として、強相関有機分子性導体(BEDT-TTF)2Xを取り扱う。有機分子性導体は電子相関による金属―絶縁体転移、磁気転移や超伝導など、遷移金属酸化物や金属間化合物に引けを取らない多彩な物性現象が発現し、有機系の特徴でもある精密な議論を武器にその理解が深まってきている。しかし、d電子スピンを含むπ電子系のスピン-電荷関連物性は非常に重要であるにもかかわらずこれまでの研究例が少ない。そこで、有機系においてπ-d 相互作用やπ電子の電荷-スピン複合自由度による特徴的な物性現象を多角的に観測し、包括的に理解することを目的としている。 今年度は近年我々が発見したα''-(BEDT-TTF)2Rb1.2Co(SCN)4において、薄片状試料の側面の赤外スペクトルを詳細に観測することで、低温での金属絶縁体転移が4つの分子電荷状態をとる電荷秩序であることを明らかにした。 また、圧力下ではこの金属絶縁体転移が消失し、室温以下の全温度領域においてギャップの狭い半導体に相転移することを発見した。この系のバンドフィリングが3/4からずれていることを踏まえると、この電子相転移は非自明なものである。上記と同様に赤外スペクトルによって、圧力下でのBEDT-TTF分子の価数を調査しているところである。 また、CoスピンとBEDT-TTF分子のπ電子スピンの相互作用がもたらす多自由度混成による物性の探索を行うために、電荷秩序相での磁気誘電効果と磁化の測定及びそれらの比較を行った。その結果、この系の磁気誘電効果の異常は、磁場によってCoスピンが配向し、πーd電子間相互作用を通じてπ電子のスピンフリップが起こり、スピンー電荷自由度の結合によって磁気誘電効果の異常が起こっていると推測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初期段階においては、α''-(BEDT-TTF)2Rb1.2Co(SCN)4の金属ー(電荷秩序)絶縁体転移温度は、圧力とともに磁気転移と思われる40K付近まで低下し、さらに高圧では金属化するような結果が得られていた。しかし、詳細、精密な再測定を行ったところ、それらは電極の劣化によるものであることが判明し、圧力下では金属ー絶縁体転移系から、ギャップの狭い半導体に転移することが明らかになった。このことは予想外であったものの、概要にも述べたように、非常に非自明な相転移を見いだしたと言える。これを解明すべく圧力下のスペクトル測定を予定している。また、磁気伝導特性の測定系については順調に稼働できるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
α''-(BEDT-TTF)2Rb1.2Co(SCN)4の圧力下での非自明な半導体への転移を明らかにすべく、圧力下赤外スペクトル測定によってBEDT-TTF分子の価数変化を捉える。 また、この系以外にも類似の構造を持つθ型物質における磁気伝導特性を測定しているところであり、α''-(BEDT-TTF)2Rb1.2Co(SCN)4で見られるホール抵抗の温度変化の異常の起源を明らかにしていく。 さらに、より高圧力下での抵抗率測定や磁気伝導特性の測定も行おうとしている。
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