2018 Fiscal Year Annual Research Report
Control of anomalous electronic states related with spin-orbit interaction in 2D/3D transition metal compounds
Publicly Offered Research
Project Area | J-Physics: Physics of conductive multipole systems |
Project/Area Number |
18H04319
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宮坂 茂樹 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (70345106)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / スピン軌道相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では「電子相関」を本質的に内包しているd電子系を対象に、スピン軌道相互作用によりtype-II Dirac電子状態が生じている層状MTe2と、層状-3次元構造相転移近傍で超伝導の出現が期待されるPdSe2の元素置換系を研究した。 層状MTe2に関しては、まず候補物質の一つであるNiTe2の純良単結晶試料の育成法の確立と、制御可能な元素置換、元素インターカレーションを模索した。まず、NiTe2単結晶の純良化に関しては、これまでの研究では過剰Niを含む結晶しか得られていなかったが、Teフラックス法を使用することで、組成比通りのNiTe2の純良結晶を得ることに成功した。この結晶は、従来の過剰Niを含む結晶に比べ、残留抵抗率が5分の1程度小さく、磁気抵抗率は5倍程度大きくなり、また磁気抵抗率の磁場に線形な振る舞いが顕著となった。更に、Teフラックスにおける仕込み組成(Ni/Teの比)を変えることで、層間にインターカレーションされるNi量の制御も可能となった。また、NiサイトへのPdの元素置換単結晶の育成にも成功した。 層状PdSe2の元素置換系では、元素置換による結晶構造-電子構造相転移を誘起し、その近傍での超伝導などの異常物性の探索を行った。PdSe2と三次元パイライト構造を取るNiSe2、RhSe2の固溶系を集中的に研究した。これらの固溶系は、常圧下での合成では二つの結晶構造が混ざり合った2相共存状態が安定化してしまうが、5GPa程度の高圧下での合成では、パイライト構造がより安定化することを見出した。この高圧合成方により、Pd1-xMxSe2(M=Ni,Rh)の合成を行い、x=0.3付近でPdSe2構造からパイライト構造への構造変化とともに、半導体金属転移が生じることを見出した。Rh系に関しては、x=0.8付近で新たな超伝導(Tc~4K)を発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Dirac電子系候補物質のNiTe2の、Teフラックス法による純良単結晶育成法、同じ方法を用いてのPd置換系の結晶育成法、導入量を制御可能なNiインターカレーション結晶育成法を確立できた。研究当初は、気相成長法による結晶の純良化や、元素置換・インターカレーション量の制御を考案していたが、より簡便な方法での結晶育成法の確立ができた点において、本研究の当初の目標を十分に達成できたと考えている。これらの純良結晶、置換・インターカレーション元素量を制御した結晶が得られたことで、今後の角度分解光電子分光測定や磁気輸送現象の研究を、計画通り推進できると考えている。 一方、層状PdSe2を母物質としての、元素置換系における結晶構造・電子構造制御にも成功している。当初の予想通り、PdSe2とパイライト構造を取るMSe2系の固溶系においては、高圧合成法を用いることでパイライト構造を広い組成域で安定化することができた。また、この結晶構造相転移に伴い、半導体-金属転移が生じることも、当初の予想通りの結果が得られたと考えている。その一方で、Rh置換系においては、金属相(x<0.3)のx=0.8という過剰にRhを置換した領域で、特異な物性、超伝導の発現を観測した。これは、半導体-金属転移近傍における異常物性と捉えるには、相転移の組成からかなり離れており、予想外の結果となった。今後、この超伝導の起源に関しては、結晶構造・電子構造相転移に伴う臨界異常の可能性以外の起源も考慮していく必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
Dirac電子系、層状MTe2の研究に関しては、本年度、NiTe2の純良単結晶の育成に成功し、更に電子状態制御を可能とするPd元素置換、Niインターカレーションの元素量制御の目途が立っている。これらの、NiTe2と元素置換系の単結晶試料を用いて、今後は角度分解光電子分光法により、制御されたDirac電子状態の直接観測を試みる。角度分解光電子分光による電子構造の研究により、Pd元素置換、Niインターカレーションにより電子状態制御が実際に成功していることを検証することで、Dirac電子状態の制御方法の実例を示すことが可能だと考えている。更に、この制御されたDirac電子状態を有する単結晶試料を用いて、Dirac電子の磁気輸送特性に関する研究も推進する。type-II Dirac電子系は候補物質が少なく、その電子制御の研究例は当該分野における先駆的なものとなりうると期待している。 一方、層状PdSe2の元素置換により結晶構造-電子構造制御を行った物質系に関しては、結晶・電子構造制御の方針が確立できている。今後は、電子構造変化に伴う電子物性の詳細の解明を、輸送現象や分光測定を通して行う。また、Rh置換系において発見された新たな超伝導の起源の解明も行う。この超伝導の起源の研究に関しては、多結晶体による研究では限界があり、単結晶による物性研究が不可欠である。そこで、単結晶育成を行い、結晶構造解析、磁気輸送現象、諸分光測定を通して、この超伝導の発現メカニズムの解明を行う。
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Research Products
(2 results)