2018 Fiscal Year Annual Research Report
Theoretical and Numerical Study on the Quantum Spin Nematic Phase and Novel Transport of Frustrated Systems
Publicly Offered Research
Project Area | J-Physics: Physics of conductive multipole systems |
Project/Area Number |
18H04330
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
坂井 徹 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (60235116)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 量子スピン系 / スピンネマティック液体 / 量子スピン液体 / フラストレーション / 磁気異方性 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来の磁気秩序とこれが量子ゆらぎで融解した量子スピン液体の中間相として、量子スピンネマティック相が注目されている。スピンフラストレーション系や磁気異方性の強い量子スピン系において実現することが理論的に予測され、いくつかの実験的な発見の報告があるが、まだその確証が得られていないのが現状である。本研究では、まだ未解明の量子スピンネマティック相がもつ新しい物性を予測するとともに、具体的な検証実験を提案することを目的として、理論模型に基づく大規模数値シミュレーションにより理論的研究を行ってきた。その結果として、低次元量子スピン系、とくにスピンラダー系において、十分大きい異方性があれば、強磁場によって誘起される量子スピンネマティック相が実現する可能性があることを示した。この量子スピンネマティック相は、従来の反強磁性体において知られているスピンフロップ転移と呼ばれる磁化ジャンプを伴う一次相転移の代わりに、磁場によって2回の二次相転移が起こり、その二つの相転移の間に出現するものである。本研究では、有限系の数値的厳密対角化と有限サイズスケーリングの手法により、強磁場中で実現する量子スピンネマティック相を含む、基底状態相図を導いた。さらに、強磁性と反強磁性の相互作用が共存するフラストレーションのあるスピンラダー系においても、異方性パラメーターの大きさによっては、ゼロ磁場の基底状態において、量子スピンネマティック液体が実現することも立証できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、現実の物質における量子スピンネマティック相の実現とその発見を目指して、これを実現できる新しい系を理論的に予測し、その検証実験を提案することを目標としている。現時点において、すでに異方的なスピンラダー系における磁場誘起スピンネマティック相だけでなく、強磁性相互作用と反強磁性相互作用の両方が共存する量子スピンラダー系におけるゼロ磁場で実現する量子スピンネマティック相も、理論予測に成功している。したがって、今後はこれらの系で実現する量子スピンネマティック相の新しい物性を、すでに完成している数値シミュレーションコードを用いて解析し、具体的な物質を使った中性子散乱、放射光X線解析、核磁気共鳴(NMR)、電子スピン共鳴(ESR)などの実験により、どのように観測可能かを予測し、検証実験を提案すれば、目標は達成される。まだ1年間あるので、この目標を達成することは、ほぼ確実と考えらえる。さらに、できれば、量子スピンネマティック相において実現する、新規な物性、とくに伝導性についても解析し、これまでに知られていない新現象を理論予測したいと考えている。これまでに、多くの低次元量子スピン系の数値シミュレーションコードの開発に成功していることから、新奇な量子スピンネマティック相の物性を予測できる可能性は十分あると思われ、そこまで研究が進められれば、本研究の成果は、当初の目標を上回る可能性も十分ある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに量子スピンネマティック相が実現することを予測することに成功した、スピンラダー系について、さらに新奇な物性が起きる可能性を探るとともに、具体的な物質を用いた、中性子散乱、放射光X線解析、核磁気共鳴(NMR)、電子スピン共鳴(ESR)などの実験により、どのように観測されるかを理論的に検討する。これまでにも、強磁場下などで、量子スピンネマティック相が観測されたと考えられている実験はあるが、それが本当に理論的に予測されている量子スピンネマティック相であるという確証はまだない。その理由としては、量子スピンネマティック相の示す新奇な物性が、まだ理論的にもよくわかっていないうえに、上述のような実験によって、どのように観測されるかが明確でないことがあげられる。そこで今後は、数値シミュレーションにより、量子スピンネマティック相が引き起こす新現象を詳細に解析するとともに、上述のような量子ビームや磁気共鳴を利用した実験により、どのように観測されるのかを具体的に解明することを目標とする。さらに、低次元量子スピン系やスピンフラストレーション系を中心に、新しい量子スピンネマティック相を実現する候補物質を探索することも継続していく。これまでに予測されている量子スピンネマティック相は、主に超強磁場でないと実現しないことが多いので、もっと容易に検証実験ができる、弱磁場領域、あるいはゼロ磁場で実現する量子スピンネマティック相を探索し、できるだけ早い検証実験の実現を目指したい。
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Research Products
(23 results)