2018 Fiscal Year Annual Research Report
大規模構造の観測を通じた超弦理論の検証
Publicly Offered Research
Project Area | Why does the Universe accelerate? - Exhaustive study and challenge for the future - |
Project/Area Number |
18H04349
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
浦川 優子 名古屋大学, 理学研究科, 招へい教員 (80580555)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | インフレーション / 非ガウス性 / 大規模構造 / 銀河サーベイ |
Outline of Annual Research Achievements |
超弦理論の理論的整合性は、我々が住む四次元時空に加えて、コンパクト化された余剰次元空間の存在を要請する。四次元時空の物理法則は、余剰次元空間の幾何構造に大きく依存する。その特徴的性質として、多様なスピン、質量をもつ場の存在を予言する。本研究の目的は、観測的宇宙論に基づき、コンパクト空間上の超弦理論が予言する痕跡の新たな探査方法を提案し、その探査可能性を具体的に検証することである。具体的には以下の二課題を遂行する: 課題1:アクシオン暗黒物質の共鳴不安定性が構造形成にもたらすインパクトの検証 暗黒物質の有力な候補の一つであるアクシオン場の新たな検出方法として、重力波を用いた方法を昨年度提案した(Soda&Urakawa, 17)。2018年には、この方法の可能性を具体的に検証するため、アクシオン場が放出する重力波をシミュレーションを用いて見積もり、その検出可能性を検証した(Kitajima, Soda, Urakawa 18)。また、重力波放出のキッカケとなる共鳴不安定性を解析し、どのような模型においてより大きな振幅の重力波生成が期待されるのか明らかにした(Fukunaga, Kitajima, Urakawa 19)。 課題2:銀河形状の観測を通じた高スピン粒子の痕跡の検証 宇宙初期の加速宇宙期であるインフレーション宇宙は、高エネルギー基礎物理の良い実験場である。高スピン粒子がインフレーションを起こすスカラー場(インフラトン)と相互作用していた 場合には、インフラトンの原始揺らぎのスペクトラムに高スピン粒子の痕跡として特徴的な角度依存性が現れる。この痕跡は、銀河形状の観測を通じて検出可能である。2018年度には、スピン2の重い粒子が銀河形状に与える影響を解析し、そのが検出可能性を具体的に調べた (Kogai, Matsubara, Nishizawa, Urakawa 18)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題1)初年度の目標としていた、アクシオン場が放出する重力波の具体的てな見積もりおよびその検出可能性の検出を終えることができた。結果、異なる質量をもつアクシオン場は、異なる周波数の重力波を放出するため、今後その実現が予測される重力波の多波長観測により、アクシオン場の質量スペクトルに迫ることができるのでは、と期待される。この成果は、一本の学術論文に発表(Kitajima, Soda, Urakawa 18)し、また一本が現在査読中(Fukunaga, Kitajima, Urakawa 19)である。 アクシオン場は、Chern-Simons結合を通じて多様なゲージ場と相互作用すると考えられている。現在は、同様の共鳴過程を通じた宇宙磁場の生成機構についても調べ、アクシオン場の振動による共鳴現象を通じた宇宙論的スケールの磁場の生成が可能であることがわかっている(Patel, Tashiro, Urakawa 19)。現在、この結果を論文にまとめる最終作業を行なっており、5または6月中に学術雑誌に投稿する予定である。
課題2)インフレーション宇宙において存在した可能性のある多様なスピンをもつ粒子の、銀河サーベイを用いた観測手法の確立を目指し、2018年度には、スピン2の重い粒子が銀河形状に与える影響を解析し、その検出可能性を具体的に調べた。結果、重い粒子の痕跡は、統計誤差の影響を受けにくい小スケールにおいて顕著となることがわかった。この成果は既に、学術雑誌に発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の成果をもとに、以下のように課題1、課題2を遂行する。
課題1)アクシオン場の共鳴過程に由来する重力波生成過程として二つの過程が考えられる。一つは、アクシオン場の自己相互作用に由来するものであり、昨年度におおよその解析を終えた。もう一つは、共鳴過程によるアクシオン場のゲージ場の生成を通じた重力波放出機構である。現在は、この二つ目の過程について調べており、2020年度に科学運用を開始するSKAなどによるPulsar Timing Arraysを用いたナノヘルツ帯の重力波実験において検出可能な重力波を放出することが、現在進行中の計算において示されている。この成果を数ヶ月中にまとめ、学術雑誌に投稿する予定である。 さらに、上記のアクシオン場の振動による共鳴現象を通じた磁場生成機構についての論文も、1または2ケ月以内に終えられる見込みである。
課題2)昨年度に得られた成果をもとに、現在は、より直接的な超弦理論の痕跡となるスピン4以上の粒子の検出可能性について調べており、概ね解析を終え、5または6月中にまとめ、学術雑誌に投稿する予定である。
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