2018 Fiscal Year Annual Research Report
リン原子含有活性化学種を鍵とする反応集積化
Publicly Offered Research
Project Area | Middle molecular strategy: Creation of higher bio-functional molecules by integrated synthesis. |
Project/Area Number |
18H04396
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
村井 利昭 岐阜大学, 工学部, 教授 (70166239)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | P-キラル / キラリティー転写 / 光学活性 / ホスフィンオキシド |
Outline of Annual Research Achievements |
リン原子上がキラルな、いわゆるP-キラル化合物の効率的な合成法が近年盛んに研究されている。合成は主に、リン原子上がすでにキラルな前駆体を用いる、またはリン原子上がプロキラルな化合物の非対称化に分けられる。しかし前者は、前駆体の調製にジアステレオマーの分割が必要であり、後者は基質範囲が限られることがしばしば課題となる。それに対して本研究ではわれわれの開発したビナフチル基を有するホスホン酸エステルを鍵出発化合物としている。エステルに対して炭素求核剤であるGriganrd反応剤を作用させると、ビナフチル基が有する二つの酸素とリン原子の結合のうち、一方のみが切断され、炭素求核剤がリン原子上に組込まれたホスフィン酸エステルを生成物として、良好な収率で与える。この場合ビナフチル基の軸不斉がリン原子上へ不斉転写しており、得られた生成物にはビナフチル基の軸不斉とリン原子の中心性不斉が組込まれており、前例のない反応様式を達成していることとこのタイプの最初の化合物である点特徴的である。そこでこの反応様式の適用限界の解明とその拡大を本研究では目指した。例えば出発化合物としては、ビナフチル基を有するホスホン酸エステルに加えて、そのイオウ、セレン同族体も対象とした。また求核剤としては、炭素求核剤に加えて、酸素、イオウさらには窒素求核剤を用いた。このうち水酸化物イオンを求核剤に用いた場合には、ホスホン酸よりも酸性度の高いP-キラルなチオホスホン酸を導くことができること、また二座配位子としても利用できることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず始めに、三塩化リン、ビナフトールならびに粉末セレンとから、ビナフチル基を組み込んだセレノリン酸塩化物1を調製した。塩化物1に別途調製したGrignard反応剤を作用させてビナフチルセレノホスホン酸エステル2を導き、その酸素化ならびに硫化によって、ビナフチルホスホン酸エステル3ならびにチオホスホン酸エステル4を合成した。3に対するGrignard反応剤の付加で、不斉転写反応を経た生成物5を導いた。そこでこの5に対する求核剤の反応で、P-キラル光学活性ホスフィンオキシドの合成を目指した。ここでの出発化合物である5のリン原子上には様々な置換基を組込むことができるが、その組合せと、さらにそれに加えるGrignard反応剤の炭素置換基の組合せで、反応速度や立体選択性の大きな差が見られた。またそれらいずれも反応温度に対して敏感な場合があり、低温では高い選択性を示すものの、反応速度が格段に低下する場合もあった。その中リン原子上の置換基がイソプロピル基とフェニル基のホスフィン酸エステルに、メチルGrignardを加えると、リン原子上での置換反応が良好に進行し、期待のホスフィンオキシドを中程度の収率で与えた。さらに出発化合物であるホスフィン酸エステルのビナフチル基の軸不斉がS、リン原子上がS配置の(Sax, Sp)からは、高選択的に(Rp)体を、一方でビナフチル基の軸不斉がRの原料から調製した(Rax, Rp)からは(Sp)体を導くことができた。すなわちホスフィンオキシドの鏡像異性体それぞれを高選択的に与える反応系を確立できた。以上のことから当初の目的通り、研究は進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
不斉転写反応についてこれまでは主に、ホスホン酸エステルと炭素求核剤の反応条件最適化を行ってきた。今後は、チオおよびセレノホスホン酸エステルに拡大し、不斉転写反応の一般性さらにはその適用範囲の拡大を目指す。すなわちこれらエステルに対して水酸化物イオンを加えると、リン原子上での置換反応が良好に進行することが期待できること、得られた化合物は、ホスホン酸よりも酸性度の高い化合物であるために、いわゆる有機触媒として利用することも期待される。さらにリン原子に酸素原子、イオウ原子が連結した二座配位子として、様々な金属錯体の調製も可能であり、得られた金属錯体を軸とする触媒反応の開発も視野に入れることができる。一方でチオおよびセレノホスホン酸エステルに連続で、炭素求核剤を組み込むことができると、ホスフィンスルフィドやホスフィンセレニドが調製できて、それらは容易に三価のホスフィンに変換しうるため、他の方法では導くことが困難なP-キラルホスフィン合成も達成しうる。すなわち全体プロジェクトとして、独自の化合物であるビナフチルリン酸塩化物を単離して以来、その適用範囲拡大を行ってきたが、さらに近年きらりティー転写反応を発見し、これによって、今後さらにより多くのP-キラルな機能性有機リン化合物を提供することができる。
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Research Products
(2 results)