2018 Fiscal Year Annual Research Report
電子状態解析に基づくトポロジカル物質相の探索
Publicly Offered Research
Project Area | Discrete Geometric Analysis for Materials Design |
Project/Area Number |
18H04472
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
相馬 清吾 東北大学, スピントロニクス学術連携研究教育センター, 准教授 (20431489)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | トポロジカル絶縁体 / ディラック半金属 / 光電子分光 / スピン分解ARPES / 線ノード半金属 / ワイル半金属 |
Outline of Annual Research Achievements |
新たなトポロジカル物質相の実験的確立を目的として、装置の改良整備とこれを用いた物性測定を行なった。高運動量分解能と高空間分解能を達成するため、真空紫外レーザーの導入と調整を行い、6 eVで0.5 Wの高出力CWレーザー光を得た。スピンベクトルを3次元的に高精度で決定するために、電子移送レンズの改良、制御電源の高安定化、VLEEDスピン検出器の再調整などにより、スピン分解時で5 meV以下のネルギー分解能を達成した。また、磁性転移によるトポロジカル相の変化を測定するため、試料クライオスタットの極低温化を行なった。 以上の装置開発と並行して、トポロジカル半金属や関連物質ついて、高分解能ARPES実験を行った。金属間化合物で最高のTcをもつMgB2と同型結晶構造をもつAlB2について、3次元的バンド構造の精密な決定を行なった。その結果、パイ電子がディラック型のバンド分散が面間方向に連なる「線ノード構造」を持つことを見出した。これはホウ素(B)で形成された蜂の巣格子構造がAA積層することで説明できる電子状態であり非自明なベリー曲率を持つことから、Mgドーピングなので超伝導化することで非自明な超伝導相を実現できる可能性を示唆した。 カイラル結晶CoSiにおいてバルク電子構造を3次元的に決定した。その結果、立方晶BZのG点とR点にそれぞれ、spin-1型のフェルミ粒子と、2重ワイル粒子に対応する電子状態が形成されていることを見出した。さらに、表面敏感性を高めたARPES実験により、それぞれの粒子をつなぐ表面フェルミアーク電子状態を明確に観測した。これらの結果から、CoSiはチャーン数2をもつ新型のトポロジカル半金属であると結論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
AlB2やCoSiなどのトポロジカル半金属候補物質について、高分解能ARPESにより、3次元的な電子構造の決定に成功し、これらが新しいタイプのトポロジカル半金属であることを見出した。さらに、CoSiにおいてはバルクの電子状態とは明確に異なる表面電子状態の観測に成功し、これがspin-1のフェルミ粒子と2重ワイル粒子をつなぐ分散を示すことから、トポロジカル相を示すチャーン数を実験的に決定することができた。これらの成果は、3次元結晶のバルク電子構造と、2次元的な表面電子状態を、それぞれ分離して観測することのできるARPES手法の特徴が大いに活かされたものであ。 さらに、トポロジカル半金属の関連物質として、Ta3SiTe6およびTlMo6Se6の電子構造の決定に成功した。ノンシンモルフィック結晶であるTa3SiTe6はにおいては、対称性により八重縮退をもつバンド分散を決定し、理論計算との比較からスピン軌道相互作用によってその縮退がとけ、フェルミ準位から40meVという範囲にアワーグラス型のバンド分散を示唆する構造を見出した。1次元超伝導結晶であるTlMo6Se6においては、線形のディラック型バンドが1次元的に連なることによ形成されたフェルミ面を観測した。また、極低温測定(1K)において超伝導ギャップを明確に観測し、さらにスペクトル解析から電子相関効果を示唆するべき乗型の状態密度を見出した。以上の結果から、TlMo6Se6は有為の電子相関が存在するトポロジカル超伝導を発現している可能性を示唆した。 以上のように、高分解能ARPESにより、新たなトポロジカル半金属物質を実験的に確立し、さらに関連物質においてもトポロジカル物質における新たな物性を示唆する結果が得られていることから、研究は当初の計画通りに順調に進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実験で、難劈開性の3次元結晶物質についてトポロジーを議論できるほどの明確なARPESデータを測定するためには、わずかに現出する劈開表面のみに励起光を集光することが大変有効であることが分かった。そのため、今後も国内放射光のエンドステーションの整備を進め、マイクロスポット化を推進するとともに、先端的な光源を得られる海外の放射光施設での実験も推進していく。実験室系においては、真空紫外レーザー光源の整備を進め、マイクロスポットARPESを実現する。さらに、非占有状態にトポロジーを特徴付ける電子構造がある物質へも研究対象を拡大するために、pump-probeレーザー光源の整備、光電子分光装置への接続、光学系の設計と制作、全体調整と行う。試料上でpump光とprobe光を同じ位置に精度よく集光させるために、反射経路の検出板とモニタシステムを構築する。レーザー出力と試料上のスポットを高安定化させるために、共鳴成分の監視システム、光学調整機構の可視化・自動化、湿度対策、清浄化対策、振動対策などを行い、装置全体の性能を向上させる。 また、トポロジカル超伝導の探索を目的にして、ディラック半金属の表面に、超高真空中でアルカリ金属を吸着し、電子構造の変化を明らかにする。とりわけ、ワイル半金属においてはフェルミアーク形状がどのように変化するかを精度よく決定し、バルクワイル点の運動量空間における位置との対応を明らかにする。さらに、試料を低温(~ 4 K)まで冷却して超高分解能ARPES実験を行い、超伝導に起因したエネルギーギャップの有無を明らかにする。エネルギーギャップが観測された場合は、その波数・フェルミ面依存性を精よく決定し、超伝導ギャップの対称性を絞りこむ。
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Research Products
(22 results)