2018 Fiscal Year Annual Research Report
ソフトクリスタル挙動を示すキラル希土類配位高分子の合成と光機能評価
Publicly Offered Research
Project Area | Soft Crystals: Science and Photofunctions of Easy-Responsive Systems with Felxibility and Higher-Ordering |
Project/Area Number |
18H04497
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
長谷川 靖哉 北海道大学, 工学研究院, 教授 (80324797)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 相転移 / 希土類錯体 / 配位高分子 / 発光 / キラル |
Outline of Annual Research Achievements |
キラル配位子を導入した希土類錯体は異方性の高い円偏光発光を示す。この集合状態におけるキラル希土類錯体の光機能解明は学術的に重要である。本研究では、結晶相転移(ソフトクリスタル挙動)を誘起するキラル希土類配位高分子の合成および光機能評価を行う。具体的には、相転移挙動を誘起するエチニル含有ホスフィンオキシドとキラル型Eu(III)錯体との反応によりキラル希土類配位高分子の合成を行う。そのキラル希土類配位高分子の様々な固体状態(結晶系α、結晶系β、ガラス状態など)における基礎光物性とキラル光機能(CDおよびCPL特性)の評価を行い、相転移挙動におけるキラル機能を明らかにする。さらに、Eu(III)とTb(III)の混合系配位高分子を合成し、温度変化による光誘起エネルギー移動過程をアレニウス解析によって評価する。 初年度では、本研究に先立ち、キラル配位子を導入したユウロピウム配位高分子の合成に成功した。この配位高分子は螺旋構造を形成していることがX線構造解析により明らかになった。その螺旋構造の形成により希土類配位高分子の発光特性と円偏光特性が大きく向上することを明らかにした。また、テルビウム配位高分子の光誘起エネルギー移動過程が錯体をつなぐリンカー配位子の分子構造によって大きく影響を受けることも本研究により明らかになった。さらに、エチニル基を導入したキラル型ユウロピウム配位高分子の合成にも初めて成功した。 以上のことから、本研究は研究の目的および実施計画どおりに研究が進行し、優れた研究成果をいくつもあげることに成功した。さらに、本研究を進めるにあたり、領域内のエキスパート研究者との共同研究も大きく進展し、本領域の活性化に大きく貢献できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究に先立ち、初年度ではビフェニルホスフィンオキシドで結合したキラル型Eu(III)配位高分子を合成した。得られた結晶のX線構造解析を行った結果、ユウロピウムイオンの周りは3つのキラル型ジケトナト配位子と2つのホスフィンオキシド連結配位子から構成されており、高分子鎖がらせん型の結晶構造を形成していることが明らかになった。固体状態におけるEu(III)配位高分子の光物性を単核のEu(III)錯体と比較したところ、発光量子効率、光増感エネルギー移動効率および円偏光発光特性のの全てにおいて向上することがわかった。これはポリマー構造形成によるLMCTバンドの変化に起因することも計算化学によって明らかになった。本研究は集合状態における光機能解明の重要な研究成果となった。 次に、固体状態のTb(III)配位高分子における励起状態Tb(III)イオンから配位子励起三重項準位への逆エネルギー移動過程につて解析を行った。具体的には、Tb(III)配位高分子の温度変化による発光寿命計測を行い、光誘起エネルギー移動過程のアレニウス解析により、希土類配位高分子の逆エネルギー移動過程(Tb(III)の励起状態から配位子の励起三重項準位の移動過程)の活性化エネルギーと頻度因子を見積もった。この解析の結果、逆エネルギー移動に関する頻度因子は配位高分子を連結するリンカー配位子の構造に大きく依存することがわかった。本研究は希土類配位高分子の逆エネルギー移動過程の詳細を解析した初めての研究成果となった。 さらに、エチニルを含むホスフィンオキシド(オルト連結のリンカー配位子)を合成し、そのリンカー配位子と発光性のキラル希土類錯体との反応によりキラルEu(III)配位高分子の合成に成功した。 以上のことから、研究は当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
得られたキラル希土類配位高分子の相転移挙動をDSCおよびTG-DTAによって計測する。次に、得られたキラル希土類配位高分子の光物性評価を行う。具体的には、固体状態における発光量子収率測定と発光寿命測定を測定し、得られた結果から放射速度定数と無放射速度定数を算出する。本研究では相転移状態における発光挙動を観察するため、発光分光装置に高温用クライオスタットを取り付け、各相転移状態における光物性観測を行う。この基礎光物性評価を結晶状態および相転移状態において比較することで、相転移変化(結晶状態および分子会合状態)における発光特性の変化(構造と物性の基礎的な相関)を明らかにする。 配位高分子中の光誘起エネルギー移動はその会合状態によって大きく変化すると考えられる。この変化を観察するため、まずTb(III)とEu(III)の混合系配位高分子を合成する。 この混合配位高分子の発光寿命の温度変化を測定し、その測定結果をアレニウス解析することにより、Tb(III)からEu(III)へのエネルギー移動の活性化エネルギーの評価を行う。この活性化エネルギーを各相転移状態で比較することにより、配位高分子の会合状態における光誘起エネルギー移動挙動変化について明らかにする。 最後に、本研究の最終目的である「会合状態におけるキラル機能」の評価を行う。具体的には、固体状態における円二色性スペクトル測定を行いたいと考えている(A03班:石井教授との共同研究を予定)。さらに、ガラス転移状態におけるCPL(円偏光発光)測定を検討する。これらのキラル評価により、相転移におけるキラル会合状態の観察が初めて達成できる。各相転移における会合状態のキラル機能評価はソフトクリスタル機能の解明・評価の重要成果となることが期待され、この評価達成を本研究課題の最終目標とする。
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Research Products
(8 results)