2018 Fiscal Year Annual Research Report
水素結合型遷移金属錯体によるナノ多孔質結晶とPCET伝導機構の研究
Publicly Offered Research
Project Area | Soft Crystals: Science and Photofunctions of Easy-Responsive Systems with Felxibility and Higher-Ordering |
Project/Area Number |
18H04525
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
田所 誠 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 教授 (60249951)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 水素結合 / プロトン伝導 / 結晶多形 / スーパーキャパシタ / 固体電解質 / PCET / 多孔質結晶 / 電気化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
金属錯体の配位子同士を相補的な水素結合で連結した結晶は、遷移金属イオンによる配位構造の堅強性や多様性とともに弱い水素結合による柔軟性や再結合性を有するソフトクリスタルといえる結晶群の1つである。このような水素結合でつくられた結晶は結晶性が良く、mmオーダーのより大きな単結晶をつくることが容易である。水素結合型金属錯体は、結晶構造の配列制御や結晶相転移、結晶変態、ゲスト分子による包接変形などソフトクリスタルとしての機能性を発現しやすい。そこで、私たちは水素結合型金属錯体の結晶をナノチャネルの多孔質結晶に集積させ、頑丈であるがある意味では脆弱な新しい物質群HBCF (Hydrogen-Bonded Coodination Framework)と分類し、その特異な物性について研究してきた。結晶2{[RuIII(Hbim)3]}nでは、PT (proton transfer) とET (electron transfer) の競合した電子伝導を起こすことを見出した。特に {RuII/RuIII}n の混合原子価状態をもつ結晶が、この伝導挙動のメカニズムのポイントであることが判明した。結晶2{[RuIII(Hbim)3]}nは直径 ~2 nmの多孔質結晶であるため、この空孔構造をスーパーキャパシタのように、イオンをため込む材料に使用できれば面白いと考えた。~2 nmのナノサイズは、NEt4+ イオンを用いる電気二重層キャパシタにとって、理論的に取り込む量が最大になる異が予測されている。このような伝導性多孔質結晶を単結晶でつくることは難しく、HBCFの弱い骨格をもつ単結晶でも、その物性開拓に役立つものと考えた。一方、強い水素結合と混合原子価状態の金属錯体が分子性導体になるということが新たに見出されたことから、その一般性の追求のため、他の構造や他の金属イオンを用いた新しいHBCF結晶を構築する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
原子核の陽子移動 (PT) と電子移動 (ET) が同期した分子材料の開発は、世界的にみてほとんど研究されていない科学分野に位置づけられる。この量子性をもつ2つの粒子を使用した分子触媒や分子デバイスは、すでに生体内タンパク質などでは実現されており、電子物性を中心にしたelectronicsと同様か、それ以上に優れた機能性をもつことが知られている。PT と ET をもつ分子材料は、従来の electronics を中心にした機能性物質開発に、PT を加味したプロト-エレクトロニクス proto-electronicsの創成を実現できるのではないだろうか。私たちは、分子間に作用する水素結合が、その H+ 移動を伴って伝導性電子の媒体になることを初めて明らかにし、新たな分子性導体を発見した。(Inorg.Chem.56, 8513(2017)) これは生体関連素子と electronics を繋ぐ、新たなインタ-フェイス開発の第一歩と捕らえている。新しい研究対象の分子は、水素結合の分子間 PT と ReIII/ReIV 混合原子価状態の分子間 ET が同期しており、20 K 以下の低温では質量効果によって重い PT に遅れが出る。一方、この物質の結晶は巨大誘電応答を示すものも合成されており、その量子的なメカニズムの解明を目指している。PT と ET はそれぞれ異なった時間スケールもつため、中性子などの測定が必須である。このような H+ と 電子 が競合する分子材料の研究は、日本が世界に先駆けて研究を開始したテーマであり、世界をリードする独自のコミュニティーをもつ。そのため、引き続きこの分野をリードする研究を行っていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、反磁性のCoIII錯体からなる準一次元ナノチャネル空孔をもつ結晶 1 では、PEGをゲストとして導入した結晶の ”1-D open channel” から “Nanovoid space” の骨格転移挙動を利用して、void space に内包された機能性分子の結晶ができないか研究することを提案している。また、PEG-Li+ 超イオン伝導体のナノ細孔へ閉じ込められたのLi+ イオンのダイナミクスを固体の7Li-NMRによって解明する。これについては固体のNMRが必要不可欠になるため、主に共同研究に頼らざる終えない。一方、酸化還元活性なRuIII錯体からなる準一次元ナノチャネル空孔をもつ結晶 2 は、~2.0 nm の直径をもつ空孔にカチオンを出し入れすることによって、イオンの充放電に利用できる分子性スーパーキャパシタの構築を目指す。さらに、伝導性結晶 2 についても、結晶 1 と同じように溶媒蒸気による結晶変態がおこれば、内包されたゲスト分子と伝導性結晶の相関がみられるような研究ができると考えている。
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Research Products
(33 results)