2018 Fiscal Year Annual Research Report
Development and Application of Analysis for Physico-chemical Properties of Proteins in Cellular Multimolecular Crowding Biosystems
Publicly Offered Research
Project Area | Chemical Approaches for Miscellaneous / Crowding Live Systems |
Project/Area Number |
18H04531
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
石森 浩一郎 北海道大学, 理学研究院, 教授 (20192487)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 圧力効果 / 構造揺らぎ / シトクロムc / 脱水和 / クラウダ― / ミオグロビン / 分子内FRET |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は以下の実験項目について研究を行った。 ① 細胞場における蛋白質構造の「構造揺らぎ」の部位特異的、定量的評価 蛋白質表面に蛍光残基であるトリプトファン残基を導入し分子内FRETが誘起されるミオグロビン、およびシトクロムcの作成を試みた。分子内FRETを起こすミオグロビンとして、野生型ミオグロビンが有する2個のトリプトファン残基のうち、N末端のTrp7をフェニルアラニンに置換し、もう一方のTrp14をドナー側とした。アクセプター側としてはヘムポケットの酸素結合部位近傍の残基をシステインに置換し、トリプトファンの蛍光で励起可能なIAEDANSを導入することとした。一方、シトクロムcについては、IAEDANSを蛋白質表面のGlu66部位に導入した変異シトクロムcを作成し、変異による電子伝達活性への影響がないことを確認することで、圧力効果測定のための測定条件の検討を行った。 ② 蛋白質立体構造形成反応 シトクロムcの立体構造形成反応については、使用する変性剤の検討を行い、これまでの圧力効果の実験結果から、その実験データが豊富な尿素と塩酸グアニジンを選択した。クラウダ―非存在下での予備実験の結果から、塩酸グアニジン変性の場合の方がその部分構造が少なく、ポリペプチド鎖が溶媒により露出し、クラウダ―の効果が大きいことが予想された。 ③ 蛋白質間電子伝達蛋白質複合体形成反応 ミトコンドリア呼吸鎖の末端酵素であるシトクロムc酸化酵素へのシトクロムcからの電子伝達反応に注目し、分子クラウダ―存在下でのその電子伝達反応の速度論的解析を検討した。分子クラウダ―としては、これまでの本申請者らの研究から、ポリエチレングリコールはシトクロムcの自動酸化反応を促進するため、多糖類分子クラウダ―としてトレハロース、蛋白質分子クラウダ―としてはアルブミンを使用することとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各実験項目の進捗状況は以下のとおりである。 ① 細胞場における蛋白質構造の「構造揺らぎ」の部位特異的、定量的評価 本年度は、どの部位にトリプトファン残基と蛍光団を導入すれば効率的なFRETが起こるのかを検討することを目標としていたので、年度計画の目標はほぼ達成されたと考えられる。しかし、変異ミオグロビンや変異シトクロムcは、発現レベル自体は悪くないものの、その構造不安定性のため、最終精製標品としての収率が予想より低く、また、その純度についても夾雑蛋白質を除去するのが容易ではなかったため、十分量の試料を確保するのが困難であった。 ② 蛋白質立体構造形成反応 本年度はクラウダ―存在下での圧力効果の予備実験まで進めることを期待していたが、これまで研究室で使用してきた加圧装置と高圧下紫外可視吸収・蛍光測定装置の高圧セルの状態が悪く、再現性の良い結果を得ることが困難な状況が続いていた。同一試料を繰り返して測定することにより、実験誤差は低減できるものの、実験効率が悪く、信頼性の高い結果を得るには大量の試料を必要としている状態である。このような状況においても、クラウダ―非存在下では再現性の良い結果を得ることができ、その結果をまとめて論文(Biophys. Physicobiol. 2019, 16, 18-27)として発表できた。 ③ 蛋白質間電子伝達蛋白質複合体形成反応 本項目についてもクラウダ―存在下での予備実験まで進める予定であったが、シトクロムc酸化酵素の活性が非常に低い場合があり、場合によっては再現性の低い結果しか得られなかった。ここでも繰り返し測定することで、信頼性のある結果が得られたものの、多量の試料と測定回数が必要な状態であった。その原因として、昨年9月の地震による停電によって超低温冷凍庫で保存していたシトクロムc酸化酵素の一部が失活したと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
各実験項目の今後の推進方策は以下のとおりである。 ① 細胞場における蛋白質構造の「構造揺らぎ」の部位特異的、定量的評価 この実験項目において本年度、明らかになった問題点は、変異ミオグロビンやシトクロムcの構造安定性が低いため、純度の高い試料を十分量確保できなかったことである。そのため、来年度はこれらの変異蛋白質の精製操作を再検討し、温度上昇を極力避けた手順で蛋白質を精製するとともに、低温下での測定も検討する。現有の装置でも温度制御は可能であるが、測定セルの結露など測定条件を検討することが必要である。一方、ミオグロビンにおいては、Trp7の変異による変異蛋白質の構造安定性低下を検討するため、Trp7を変異せずにTrp14を変異させた変異体についても、その構造安定性を検討し、Trp7変異体よりも安定であれば、Trp14変異体を用いて今後の検討を行う。 ② 蛋白質立体構造形成反応 加圧装置と高圧セルについて、それぞれオーバーホールと各部品の洗浄を実施し、再組み立てと再調整を行うことを予定している。オーバーホールや各部品の洗浄自体は本研究者の研究室において可能で、これまでも数年に一度の頻度で同様な対応を行ってきているが、部品の不備などは作製業者と連絡を取って進める。平成31年度の実験計画に大きな支障が出ないように、できるだけ年度初めに各種整備作業は終了させる予定である。 ③ 蛋白質間電子伝達蛋白質複合体形成反応 シトクロムc酸化酵素の失活については、共同研究先と連絡を取って、新たに調製した試料を用いて測定することで、従来通りの活性が再現性良く測定できることが期待される。長時間の停電等に備え、一部の試料は液体窒素保存容器等を利用して保存する。
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