2018 Fiscal Year Annual Research Report
組織夾雑系の理解を目的としたケミカルプローブの設計戦略
Publicly Offered Research
Project Area | Chemical Approaches for Miscellaneous / Crowding Live Systems |
Project/Area Number |
18H04543
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
田井中 一貴 新潟大学, 脳研究所, 教授 (80506113)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ケミカルプローブ / 組織夾雑 / 組織透明化 / 3Dイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
夾雑な構成因子からなるヒト脳組織は、光の吸収および光の散乱のためそのままでは不透明である。組織の内部を非破壊的に観察するための組織透明化における化学的概念の体系化を試みた。今年度は、水溶性化合物を用いた組織透明化の化学的原理の体系化に向けて、求められる透明化パラメータ(脱脂・脱色・屈折率調整・脱灰)の包括的なプロファイリングに基づいた合理的手法を開発した。それぞれのパラメータに対して約1,600種類の水溶性化合物の「包括的なケミカルプロファイリング」を実施した結果、①脱脂には塩を含まないオクタノール/水分配係数の高いアミン(脂溶性アミンおよびアミノアルコールなど)が効果的であること、②脱色にはN-アルキルイミダゾールが効果的であること、③屈折率調整には芳香族アミドが効果的であること、④脱灰にはリン酸カルシウムのリン酸イオンのプロトン化(水素付加)が重要であることを見いだした。さらに、各パラメータにおいて最適化されたケミカルカクテルを統合した一連の新しい透明化プロトコールを開発することで、マウスの各種臓器および骨を含むマウス全身、ヒト組織を含む大きな霊長類サンプルの高度な透明化に成功した(Tainaka et al., Cell Rep., 2018, 24, 2196-2210.e9)。これらの透明化試薬の改良の結果、ヒト脳剖検サンプルの光学的課題である1)透明化後の褐色状の呈色、2)リポフスチンに代表される強度な自家蛍光、を効率よく抑制する透明化プロトコールが得られた。更に、包括的染色プロファイリングによる特異的蛍光プローブの設計に向けて、プローブとして応用可能なポテンシャルのある色素を包括的に探索し、透明化技術に特化したケミカルプローブの体系化が進みつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒト脳組織の透明化技術における化学的概念の体系化に向けて、包括的なケミカルプロファイリングを実施した結果、水溶性試薬による組織透明化に必要な因子(脱脂・脱色・屈折率調整・脱灰)において重要なケミカルパラメータの抽出に成功した。これまで化学的な原理の理解にまで踏み込めなかった組織透明化における化学体系を明らかにすることで、夾雑ではありながらも光学的には均一な環境を提供するための化学的戦略を指し示すことができた。 ヒト脳全細胞解析を実現するためには、より大きな組織を高度に透明化する必要がある。今後さらに透明化技術を飛躍・発展させるために、本研究を基盤とした化学的根拠の明確なアプローチによる合理的な開発戦略は、これからの新たなスタンダードとなることが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
高度に透明化処理を施したヒト脳組織では、過去に開発されたケミカルプローブの染色性が全く異なっている結果が得られた。これは既存の色素の染色特異性に関する知見が通用しないことを意味する。透明化技術の進歩にも関わらず、適用可能なケミカルプローブの開発が進まない問題点の本質が、この点にある。有機化学の特長とする緻密なケミカルプローブの設計指針が白紙となった今、まず特異的なプローブとして応用できるポテンシャルのある色素を包括的に探索し、透明化技術に特化したケミカルプローブの体系化を試みる。今後は、透明化条件において特異的染色性を示すケミカルプローブをノンバイアスなスクリーニング手法により選別し、病理学の基盤となるKB染色法などの一般染色に適用可能なケミカルプローブを探索する。
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[Journal Article] Chemical Landscape for Tissue Clearing Based on Hydrophilic Reagents.2018
Author(s)
Tainaka K, Murakami TC, Susaki EA, Shimizu C, Saito R, Takahashi K, Hayashi-Takagi A, Sekiya H, Arima Y, Nojima S, Ikemura M, Ushiku T, Shimizu Y, Murakami M, Tanaka KF, Iino M, Kasai H, Sasaoka T, Kobayashi K, Miyazono K, Morii E, Isa T, Fukayama M, Kakita A, Ueda HR.
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Journal Title
Cell Rep.
Volume: 24
Pages: 2196-2210.e9
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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