2018 Fiscal Year Annual Research Report
酵素活性に着目した分子夾雑系定量評価法の開発
Publicly Offered Research
Project Area | Chemical Approaches for Miscellaneous / Crowding Live Systems |
Project/Area Number |
18H04545
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
加地 範匡 九州大学, 工学研究院, 教授 (90402479)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 酵素活性 / 分子クラウディング / 細胞 / マイクロデバイス |
Outline of Annual Research Achievements |
我々の体の最小単位である細胞は、多数の分子が相互作用してある特定の機能を発揮する閉鎖空間であり、この複雑な分子の相互作用ネットワークを円滑に動作させる役割を直接的に担っているのが酵素分子をはじめとしたタンパク質である。本研究では、細胞を1細胞ごとに細胞と同程度の大きさを有するマイクロチャンバー内に隔離し、ナノメートルサイズの鋭い先端を有するナノワイヤを用いて細胞膜を破砕した後も細胞内の分子ネットワークの流れ、すなわち酵素分子の機能(酵素活性)が保たれるかどうかに焦点を当て、モレキュラークラウディング剤で再構成した疑似細胞内との比較検討も加えることで、細胞内の分子夾雑系が細胞機能に与える生物学的意義の本質的理解を目指している。 本研究目的を達成するために、本年度はデバイス構造最適化とターゲット酵素発言構築・評価を行ってきた。具体的には、マイクロチャンバーアレイをポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いて作製し、その中にHeLa細胞を封入する時の最適チャンバーサイズ・密度・間隔と、細胞濃度を検討することで、ひとつのマイクロチャンバーに数細胞が封入される条件を見出した。また、細胞をZnO製ナノワイヤに押し付けることで細胞膜を破砕することが可能かどうかをSEM・光学顕微鏡観察により確認した。その結果、ある閾値を超えると完全に細胞が破砕されることを明らかとした。今後はこれらの実験条件をもとに、マイクロチャンバーとナノワイヤを組み合わせて、細胞を適度に破砕する(細胞核・細胞核膜は損傷せずに細胞膜のみを破砕)条件を探索していく。また、酵素反応速度を計測するための対象として、数種の候補酵素の選定を行い、それぞれの反応速度に関する情報をプレートリーダーを用いて取得した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
デバイス構造最適化に関しては、マイクロチャンバーアレイのサイズ・間隔・密度を数細胞のHeLa細胞を封入する条件まで絞り込めており、当初の目的を達成している。また、ZnO製ナノワイヤに関しても、細胞を破砕するための最適な密度・長さ・直径の検討がほぼ終了しており、おおむね順調に進展していると言える。今後は、マイクロチャンバーアレイとナノワイヤを組み合わせた際に更なる最適化が必要と思われるため、デバイス一体化の際の条件出しを進めて行く。 ターゲット酵素の選定と発現系構築に関しては、候補酵素分子の絞り込みは終了しているが、研究施設のP2申請等の関係で、発現系の構築がまだ行えていない。現時点で申請は終了し、認定を待つだけの状態であるため、速やかに実験を開始して計画通りに研究を推進する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、これまでに構築してきた蛍光タンパク質と酵素分子の共発現系を用い、蛍光顕微鏡やCCDカメラといった周辺機器の最適化を進めるとともに、得られる多数のデータを統計学処理により網羅的に解析する方法を検討することで、簡便に1細胞内の酵素分子数と酵素活性を同時に評価できる実験系を確立する。酵素活性評価においては、反応時の温度制御が重要な課題のひとつである。蛍光シグナルの測定に用いる蛍光顕微鏡そのものをインキュベーターに入れる方法もあるが、装置構成が大がかりで汎用性が乏しくなるため、これまでにチップPCRを行うために開発してきたペルチェ素子を用いた温度制御系を用いることで、良好な再現性が得られる実験系を構築する。また、細胞の代わりに無細胞合成系の試薬とモレキュラークラウディング剤であるPEGなどを封入することで擬似的な細胞環境を再現し、酵素活性を測定する。これらを比較検討することで、分子夾雑系の本質的な理解をすすめるとともに、酵素分子の機能制御を可能とするモレキュラークラウディングをはじめとした疑似細胞内環境の合理的な設計指針を確立する。
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