2018 Fiscal Year Annual Research Report
分子夾雑系におけるタンパク質の動的挙動-揺らぎと反応ダイナミクス-
Publicly Offered Research
Project Area | Chemical Approaches for Miscellaneous / Crowding Live Systems |
Project/Area Number |
18H04552
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中曽根 祐介 京都大学, 理学研究科, 助教 (00613019)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | クラウディング / 光活性化型アデニル酸シクラーゼ / 酵素活性 / 揺らぎ / 光反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞環境を生体分子の反応場として理解するために、様々なクラウディング環境下でのタンパク質の反応・酵素活性を調べた。研究対象として光活性化型アデニル酸シクラーゼ(PAC)を取り上げた。PACは光依存的にATPからcAMPを合成する酵素である。cAMPは幅広い生物種が情報伝達物質として利用するため、PACはその細胞内濃度を光でコントロール可能な素子として応用面からも注目されている。クラウディング剤としてはFicoll 70, PEG 200, PEG 35000, Dextran, BSAを用いた。 まずPACの光反応を希薄バッファー中で調べたところ、発色団の反応が1 ns以内に完了した後、タンパク質全体の構造変化が57 msで起こることを明らかにした。これは光センサードメインと酵素ドメイン間の配向変化を捉えたものと解釈された。次にクラウディング環境下で同様の測定を行うと、構造変化を表す信号強度が減少する様子が観測された。これは反応速度や反応収率の低下に由来する。一般にクラウディング環境では排除体積効果により分子がコンパクトになり、タンパク質構造の安定化が起こる。これに伴い揺らぎが抑えられたことが反応性低下の要因と予想される。 続いて酵素活性をHPLCにより評価した。合成されるcAMP量を光照射前後で比較することで、酵素活性の上昇率が算出できる。希薄バッファー中に比べてクラウディング環境下では光依存的な活性の上昇率が低下することが明らかとなり、反応性の低下との相関が示された。その影響がクラウディング剤によって異なることも見出し、溶液の粘度や分子間相互作用など様々な因子が関わることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通り、反応性・酵素活性に対するクラウディング効果の定量的解析を進め、分子反応と酵素活性の相関をクラウディング研究を通じて示すことに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
タンパク質は不安定な構造を持ち、熱的に絶えず揺らいでいる。この柔軟さにより高い反応性を有すると考えられる。したがって揺らぎの実観測を行い、クラウディング環境における反応性や酵素活性の低下の要因を、揺らぎという観点から明らかにする。また安定性と揺らぎのトレードオフの関係についてもクラウディング研究を通じて検討する。 具体的には希薄バッファー中およびクラウディング環境下におけるPACの揺らぎや安定性を熱量計を用いて調べる。揺らぎと密接な関係がある熱容量や熱膨張係数を定量し、またタンパク質の変性温度から安定性の評価を行う。これらを比較することで、揺らぎと安定性の関係を明らかにする。 続いて過渡回折格子法により反応に伴う熱放出や体積変化を時間分解で検出し、その信号強度から中間体のエンタルピーや部分モル体積を決定する。これらに対する温度依存性・圧力依存性を調べることで、反応中間体の揺らぎを熱力学的観点から捉える。これらの測定をクラウディング環境下で行い、反応速度や反応収率の低下の要因を、反応中間体の揺らぎの増減として明らかにする。
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Research Products
(8 results)