2018 Fiscal Year Annual Research Report
超新星背景ニュートリノにおけるスターバースト銀河とブラックホール形成の寄与
Publicly Offered Research
Project Area | Gravitational wave physics and astronomy: Genesis |
Project/Area Number |
18H04578
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
安藤 真一郎 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 客員科学研究員 (80791970)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 超新星爆発 / ニュートリノ / ブラックホール形成 / スターバースト銀河 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画初年度においては、以下の投稿論文一編が学術誌に掲載された。"Constraints on MeV dark matter using neutrino detectors and their implication for the 21-cm results", Niki Klop, 安藤真一郎, Physical Review D誌、98巻、第10号、103004、(2018年)。また同結果を2018年8月に行われた国際研究会TeV Particle Astrophysicsにおいて筆頭著者であるNiki Klopがポスター講演を行なっている。この研究成果は、超新星背景ニュートリノに深く関連する、現在あるいは将来のニュートリノ検出機において、暗黒物質対消滅の検出可能性を探ったものであり、次年度以降の研究においてバックグラウンドの取り扱いを含めて貢献するものである。 また、スターバースト銀河、またブラックホールなどの様々な天体からのニュートリノ放射とその検出可能性を探った業績として"Angular power spectrum analysis on current and future high-energy neutrino data", Ariane Dekker, 安藤真一郎, Journal of Cosmology and Astroparticle Physics誌 1902巻、002、(2019年)を投稿、出版した。ここではIceCube検出器などの大型ニュートリノ望遠鏡において、スターバースト銀河に代表されるような天体から期待されるニュートリノイベントを予言、またデータの解釈を行い、パワースペクトルというあらたな解析手法を提案し、候補天体の同定に極めて有用であることを示した。 最後に、10月に富山で行われた領域ワークショップ「重力波とニュートリノで読み解く超新星の多次元的性質」において、本研究計画の進捗状況の報告を口頭講演のかたちで行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画初年度である2018年度は、まずスターバースト銀河とその星形成率と恒星の初期質量関数に関する文献の調査を行なった。そしてそれら先行研究でなされた成果、より具体的には恒星初期質量関数の星形成率への依存性を、もっとも現実的に取り入れる形で、従来用いられていた定式化に大幅なアップデートを施した。さらに超新星爆発ニュートリノのスペクトルの初期恒星質量における依存性に関しても、数値シミュレーション結果などを通じて調査を開始している。 同時に超新星背景ニュートリノの検出の際に正確に評価が必要となる、太陽ニュートリノ、原子炉ニュートリノ、大気ニュートリノなどのバックグラウンドの見積もりを行なった。そしてこれらのバックグラウンド成分のフラックスからニュートリノ検出器における検出率を求める計算コードを開発した。 最近EDGESという宇宙再電離に関する研究を遂行する計画により、21センチ吸収線の検出が報告された。しかし検出された吸収線の量が通常の天体モデルから期待されるのよりも多かったため、暗黒物質などの素粒子の標準模型を超えた物理による説明が世界的に報告されていた。その有力な素粒子モデルのひとつとして、暗黒物質が対消滅を起こし、ニュートリノと反ニュートリノのみを生成する可能性があることに着目し、さらにそれに必要なエネルギー領域が、本計画でターゲットとしていた数10MeV程度であったことから、超新星背景ニュートリノの研究に適用する予定であったバックグラウンドモデルや計算コードを用い、その暗黒物質モデルに対して重要な制限を与えることに成功した。 上記の理由により、次年度における実際の計算における前準備が十分に整うとともに、予期せぬ21センチ線検出報告に関連した暗黒物質モデルに関する重要な制限を発表することに成功したことから、初年度の研究計画は概ね順調に進展したということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
最新の理論モデルによる超新星背景ニュートリノのフラックスに対する検出可能性の議論を行う。まずは、近年に稼働開始することが期待されるガドリニウムを溶解したSK(SK-Gd)を考察する。特に高エネルギー側においては、用いるモデルによって大気ニュートリノによるバックグラウンドの扱いが非常に重量になってくる。したがって、超新星背景ニュートリノの理論予言とも合わせて、慎重に議論を行っていくことを計画している。同様の議論をHK、あるいはガドリニウムを溶解した際に期待されるHK程度の体積を持つ検出器、また液体アルゴンやシンチレーターなど、水チェレンコフ型検出器以外の可能性についても行う。 従来の中性子星が最終状態として中心部に残されるような超新星爆発から期待される、超新星背景ニュートリノのスペクトルとの比較を行う。 低エネルギー側ではフラックスが落ち、逆に高エネルギー側では大きくなる(スペクトルが硬くなる)ことが期待されるが、その効果を不定性まで含めて定量的に評価し、上述の検出可能性にどのようなインパクトがあるか、また近未来の検出プロジェクトが数年分のデータを蓄積した際に、ブラックホール形成に関する超新星爆発や中性子星物質の物理にどの程度まで迫れるかの議論を行う。近い将来銀河内で超新星爆発が起こった場合、現在稼働中のSKやIceCubeでニュートリノの確実な検出が期待される。この場合、特定の超新星の物理に関する強力な制限が得られると期待できるが、超新星背景ニュートリノでなければできない物理も数多く残される。その多くは、スターバースト銀河における星形成率や、ブラックホール形成に関する物理などである。このあたりの議論を詳細にわたって定量的に展開し、論文としてまとめることを計画している。
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Research Products
(5 results)