2018 Fiscal Year Annual Research Report
さそり座X-1の専用モニタリング小型衛星による定常重力波への挑戦
Publicly Offered Research
Project Area | Gravitational wave physics and astronomy: Genesis |
Project/Area Number |
18H04584
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
榎戸 輝揚 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (20748123)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 超小型衛星 / NICER / 重力波 / パルサー / 定常重力波 / さそり座X-1 / 準周期振動 / 降着円盤 |
Outline of Annual Research Achievements |
LIGO をはじめとする重力波干渉計により、ブラックホールや中性子星の合体にともなう突発重力波の観測と、可視光、電波、X線など電磁波望遠鏡による追跡観測が世界的な潮流になっている。本研究では、それとは相補的な挑戦的なテーマとして、高速自転する中性子星がその形状を球対称からわずかに歪ませていたときに期待できる定常重力波の検出にむけ、その探査感度の向上に貢献できる、パルサーの自転情報の暦をX線観測によりモニターすることを狙っている。こういった重力波の探査では、孤立中性子星(パルサー)の自転周期を長期にわたって電磁波でモニターすることや、連星をなし相手の星から質量降着を受けた中性子星の降着に応じて変動する周期情報をX線によってモニタ観測することで得られると期待できる。今年度の研究では、2017年に国際宇宙ステーションに搭載された新型の大面積X線望遠鏡 NICER (Neutron star Interior Composition ExploreR) を用いて、X線で観測できるX線パルサー PSR J1412+7922 と PSR J1849-0001 を長期モニタリングし、その自転暦をかつてない精度で求め、将来の LIGO によって星の形状の歪みや r-mode 振動に関する情報に制限を与えられることを示した(Bogdanov, Ho, and Enoto et al., ApJ, accepted arXiv:1902.00144)。これらの NICER の貢献は LIGO チームとの共同研究につながった (LIGO Scientific Collaboration, arXiv:1902.08507)。さらに、こういった NICER の技術を応用した超小型衛星に向けた基礎開発を進めている。本年度は Zynq を用いた読み出しボードを開発したとともに、衛星設計を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
NICER を用いた観測結果がまとまり、観測装置の較正作業に基づいたスペクトル解析を中心に貢献した。これは研究代表者がリーダーをつとめる、NICER の強磁場中性子星のサイエンス検討グループ (Magnetar and Magnetosphere, M&M) からの結果である。LIGO との共同研究も含めて2本の論文にまとまっている。さらに、超小型衛星に向けた議論を、サイエンスの観測装置(ペイロード部分)だけではなく、超小型衛星を中心に長年の観測を行ってきた工学系グループとも複数回の議論を行い、衛星の概念設計を進めている。同時に、シリコンドリフト検出器と読み出し系をフロントローディングで開発すべく、Zynq を用いた読み出しボードの設計、開発を進め、プロトタイプモデルの製作を行った。超小型衛星による明るいX線源の観測に向けた境界条件がはっきりしてくるとともに、その条件の中で実際の観測を現実的に行うための準備を進めている点で、研究は進展している。これらの議論は国内の複数の研究会やワークショップで報告を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に製作し年度末に納品された Zynq を用いた読み出しボードの検証を行い、検出器とつないだ測定実験を行う。また、バックアッププランとして開発を進めてきた、別種の読み出し回路ボードとの比較も行い、放射線体制や現実の宇宙環境の条件下での測定が可能な読み出し系を詰めていく。同時に、超小型衛星全体の設計を工学系のグループと連携して進め、モデルプランを完成させる。この際、X線集光系とシリコンドリフト検出器というシステムの超小型衛星での条件も鑑み、ガス検出器やシンチレータ検出器をコリメータと組み合わせたよりシンプルな装置での早期実現というプランも検討する。また、NICER をはじめとして既にアーカイブされている孤立X線パルサーや降着型X線パルサーの時間解析などを行い、重力波観測に向けたX線観測による貢献の可能性を探る。
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