2018 Fiscal Year Annual Research Report
Marine polycations and their roles in chemical communication
Publicly Offered Research
Project Area | Frontier research of chemical communications |
Project/Area Number |
18H04600
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
酒井 隆一 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (20265721)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ポリアミン / グアニジン / 膜透過 / 分子送達 / 毒性 / ペプチド毒 / 海綿 / 生合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
西表島産海綿より強い抗カビ作用を持つ既知脂溶性成分パプアミン類を単離した。パプアミン類は主にアルコール抽出物に含まれているが、水抽出物のタンパク質画分をメタノール抽出することによっても得られたことから、パプアミンが海綿のタンパク質と結合していることが示唆された。また、西表産海綿Axinyssa aculeataより新規のポリアミンペプチド、アーキュレインDを単離・構造決定した。さらにパラオ産の海綿2種よりポリアルキルピリジン(PAP)の分離を行い、分子サイズの異なるPAPを得た。パラオのスナギンチャクEpizoanthus illoricatusに含まれるトリスグアニジンアルカロイドKB343および類縁化合物の構造と活性を検討した。西表・石垣島、およびパラオ生物の観察と採集を行い、150種の底生生物を採集した。また石垣島でタイマイ一頭を捕獲し、本年度の行動実験に備え飼育している。西表産の海洋生物の抽出物については、ヤドカリと海水魚(Pempheris)を用いて行動実験を行った結果、ポリカチオンを含む海綿はヤドカリに摂食阻害作用を示したが、試験魚は忌避行動を引き起こさず、24時間以内に死亡した。単離化合物については細胞毒性、抗カビ性、溶血性の評価を行うとともに、細胞内に蛍光ナノ粒子を送達するか否かを調べた。またA3班との共同でKB343の活性を変異型酵母によるケミカルゲノミクス解析を行ないKB343 が特定の遺伝子欠損株に対して強く活性を示すことを見出した。ポリカチオン化合物により、細胞内に10kDa程度のナノ粒子を送達できることを観察した。また、西表産の海綿Spongosoritesに含まれる毒素タンパク質ソリテシジンに関する研究も進め、論文化した。これは化学コミュニケーション物質としてタンパク質も重要であることを示したものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の研究では主に、ポリカチオン化合物を分離し、その生理活性の検討を中心に研究を進めた。本研究ではフィールド観察を重視し、ポリカチオンが「海の中でどのような役割を持っているのか」を知ることに重点を置いているが、天候不良のため思ったようにフィールド観察が進まなかった。一方、今回、分子内にポリアミンを含むパプアミンが海綿の高分子画分に含まれていることを示唆するデータが得られた点は非常に興味深いと考えている。これは、パプアミンの貯蔵や生合成に関係のあるタンパク質が含まれていることを示唆しているので、タンパク質の解析から生合成に迫る道筋がつけられると期待している。この手法を他の化合物にも広げて行けば生合成経路の不明な海洋天然物の生合成に関する知見を得る手法の開発につながるので、さらに検討してゆきたい。また、昨年はかねてから取り組んでいた海綿の毒素SORについて論文化した。海洋生物にはポリカチオンに加えて「タンパク質活性成分」も積極的に化学コミュニケーションに用いられている可能性が高く今後推進すべきと考えている。ポリカチオンの単離・構造決定についてはおおむね順調に進行している。パプアミンをはじめ海綿のポリカチオンには生理活性が強いもののその機序が知られていないものがほとんどである。今回A02,A03計画班との共同で機構解明の緒をつけることができ、より多くの活性ポリカチオンに広がると期待している。パプアミンを含む海産ポリカチオンはその構造から生合成経路を予想することが困難なグループで、タンパク質成分に着目した生合成研究の緒をつけたいと考えている。昨年度は長期間冷凍保存していたサンプルを用いたためタンパク質が分解されていたが、本年度は新鮮な試料を採集したのでこの点に関しても進展を期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、海綿食で知られるカメが、ポリカチオンにどのような反応を示すかを水槽実験で確認するとともに、カメの摂食行動を撮影し、摂食した海綿の成分を分析する予定である。また、昨年度は1種の魚類の藻で実験を行ったが、本年度は食性の異なる魚類を採集し、その行動とポリアミンの関係を調べる。また、この研究を通じて一般の人々に海洋天然物研究の意義を伝えることのできるショートビデオを作成したい。昨年度に得られた海綿のタンパク質成分と生理活性物質の研究は、生合成の観点から推進したい。昨年度の研究でポリカチオンを含む海綿を複数採集することができたので、生合成や海綿における貯蔵等の疑問に答えるため、タンパク質成分の網羅的解析を行う。具体的には、昨年度までにパプアミンがタンパク質画分に移行することが示されたことから、ポリカチオンと何らかの親和性を示すタンパク質が含まれていることが示唆されている。そこでまず、パプアミン結合タンパク質の分離をパプアミンのアフィニティーカラムを作成し試みる。結合タンパク質はトリプシン消化後にLC-MS/MSによる配列解析を行い、どのようなタンパク質が含まれるかを調べる。当初の計画にはなかったが、タンパク質そのものが生理活性物質として機能している可能性がSORの研究で示唆された。そこで、これをさらに発展させ、より多くの活性タンパク質を見出すことで、生理活性タンパク質による化学コミュニケーションのパラダイムをさらに進展したい。活性成分の構造活性相関や作用機序解明はA02,A03計画班との共同研究でさらに進展させたい。
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Research Products
(4 results)