2018 Fiscal Year Annual Research Report
赤痢アメーバ“脂質代謝”の特殊性の解明―寄生適応戦略について―
Publicly Offered Research
Project Area | Quality of lipids in biological systems |
Project/Area Number |
18H04675
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
見市 文香 (三田村文香) 佐賀大学, 医学部, 講師(特定) (70576818)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 含硫脂質代謝 / 寄生適応戦略 |
Outline of Annual Research Achievements |
赤痢アメーバはヒトの大腸に感染し、アメーバ赤痢を引き起こす寄生原虫である。我々は赤痢アメーバの硫酸代謝に着目した研究を行っている。硫酸代謝は生物界に普遍的に存在、様々な硫酸化分子を提供する重要な代謝経路である。これまでの我々の研究から、赤痢アメーバの硫酸代謝が含硫脂質代謝に特化し、コレステロール硫酸を含む6種類の含硫脂質が合成されること、コレステロール硫酸がステージ移行であるシスト形成制御に必須な分子であることを見出した。赤痢アメーバのシスト形成は寄生原虫の寄生性・病原性に関わる重要な生物機構であるが、その制御機構は未解明なままである。本課題では、含硫脂質代謝とシスト形成制御機構との関連について、その全容解明を目指して、研究を開始した。 最初に、コレステロール硫酸のシスト形成制御機構への作用機序を明らかにする目的で、シスト形成の新規な解析法としてフローサイトメトリー法を導入した。本方法を用いることで栄養体とシストをそれぞれ、細胞集団として明確に区別して検出するだけでなく、経時的な解析を行うことで、栄養体からシストへの細胞分化過程を、細胞集団の移動として可視化することが可能となった。つまり本方法はコレステロール硫酸を含めた、様々な分子によるシスト形成への影響を、細胞集団の移動の変化として検出することが可能となった。次にコレステロール硫酸が作用する分子群の同定と機能解析のために、含硫脂質代謝を標的とする阻害剤探索を行った結果、赤痢アメーバ含硫脂質合成酵素の1つを選択的に阻害する化合物を3種類得た。そしてこれら3種類の化合物は、シスト形成を阻害するが、その場合、赤痢アメーバ細胞はシストになることなく、栄養体のまま維持されることを、フローサイトメトリー法により明確に示すことが出来た。以上にことから、新たな知見としてコレステロール硫酸がシスト形成初期誘導に関与することが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本課題では、含硫脂質代謝とシスト形成制御機構との関連について、その全容解明を目指して、研究を開始したが、シスト形成に対する含硫脂質代謝の影響を解析するにあたり、シスト形成の評価方法の改善を最初に行う必要があった。なぜなら、従来方法は、形成されたシストの数や割合を顕微鏡下で計測するという方法であり、得られる情報がシスト形成効率のみであり、個々の細胞の状態や集団を見ることは不可能であった。我々が導入したフローサイトメトリーを用いる解析方法により、コレステロール硫酸によるシスト形成効率の促進が実際どの細胞集団に影響を与えるのか、など解析が可能となった。 また、コレステロール硫酸が作用する分子群の同定ならびに機能解析のためのツールとしての阻害剤についても、これまでは、他の生物種を含めた硫酸代謝一般について、報告されている阻害剤が限られており、使用できるものについても数mMから数百 mMオーダーでの使用となり、有用な阻害剤ではなかった。今回新たに、赤痢アメーバ含硫脂質合成酵素を数μMオーダーで阻害する化合物を得ることが出来たこと、そしてその影響をフローサイトメトリー法と組み合わせて解析することが出来た。今後はこれらの方法論を用いて本研究課題の目的である赤痢アメーバ脂質代謝の特殊性の解明に向かって研究を進行できるようになった。これらの成果は、当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
含硫脂質代謝とシスト形成制御機構との関連について、その全容解明を目指し、コレステロール硫酸によるシスト形成に与える影響を、我々が確立した新規解析方法であるフローサイトメトリー法を用いて詳細に解析を行う。また、初年度に得た、含硫脂質合成酵素をμMオーダーで阻害する化合物を用いて、コレステロール硫酸の機能解析を行うだけでなく、他の含硫脂質(未同定のSL-II, III, IV)とfatty alcohol disulfatesの機能解析も行う予定である。
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Research Products
(7 results)