2018 Fiscal Year Annual Research Report
がん細胞および腫瘍微小環境の温熱耐性応答メカニズムの解明
Publicly Offered Research
Project Area | Integrative understanding of biological phenomena with temperature as a key theme |
Project/Area Number |
18H04686
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
畠山 浩人 千葉大学, 大学院薬学研究院, 助教 (70504786)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 温熱耐性 / がん治療 / CTGF / 代謝アダプテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
一般にがん細胞は42℃で死ぬとされているが、温熱療法下のがん細胞や腫瘍組織の応答、何度でどの程度細胞死が誘導されるか不明で温熱療法は期待ほどの効果が得られていない。これまでにがん細胞は温熱に対して感受性に大きな差があり耐性がん細胞が存在すること、温熱感受性、耐性細胞間の遺伝子、タンパク質発現解析から、温熱耐性因子として結合組織成長因子CTGFを見出した。 また温熱耐性がん細胞では、温熱下で解糖系が抑制され、温熱時に発現が上昇するCTGFを阻害し温熱感受性化した耐性がん細胞ではエネルギー枯渇が引き起たが、CTGFとエネルギー代謝の関連について報告はなく不明である。 温熱耐性がん細胞が温熱下で引き起こされる代謝変動の検討を行った。がん細胞はエネルギー産生をwarburg効果におり解糖系に依存しており、温熱によって解糖系が阻害されるとエネルギー枯渇が生じるため、エネルギー枯渇を回避する必要がある。グルタミンからTCA回路への流入によるエネルギー産生を検討するため、グルタミンからグルタミン酸に変換する酵素GLS1をsiRNAで阻害した温熱耐性がん細胞を温熱処置したところ、非常に強い感受性化が観察された。これは、温熱耐性がん細胞がグルタミン分解経路にエネルギー産生を依存している可能性を示唆するものである。 温熱耐性がん細胞の培養培地を温熱感受性細胞に添加し温熱処置すると温熱耐性化が観られ、CTGFを含む液性因子の作用が温熱耐性の誘導を引き起こす可能性が示唆された。 in vivo温熱処置を行うため、800nm付近に吸収スペクトルを示す直径10nmの金ナノロッドを担癌マウスへ投与し、腫瘍に近赤外レーザー(750~900 nm)を照射することで金ナノロッドが光エネルギーを熱に変換し50~55℃で5分間局所温熱処置する条件を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CTGFの受容体や転写因子の同定は実験系の確立が難航しており現在も検討中であるが、GLS1の阻害によって温熱耐性がん細胞が温熱感受性化したことから、温熱耐性がん細胞が温熱下でエネルギー代謝を解糖系からグルタミン分解経路へと代謝アダプテーションを引き起こしている可能性を見出した。グルタミン分解経路と温熱感受性に関する報告はなく、新規な知見である。また、この結果はGLS1を新たな温熱感受性化標的分子として見出すことに成功したと言える。 またin vivo温熱処置では、計画通り金ナノロッドと近赤外レーザーを組み合わせた腫瘍局所温熱が可能となった。本条件で温熱感受性細胞を皮下移植した担癌マウスにおける局所温熱処置後に腫瘍の増殖の抑制が観察された。腫瘍組織や所属リンパ節内での樹状細胞活性化マーカーCD86や細胞障害性T細胞マーカーCD8の発現上昇がみられ、温熱処置による免疫治療の発展が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
温熱耐性細胞ではエネルギー代謝を解糖系からグルタミン分解経路へとアダプテーションが生じている可能性が示された。キャピラリー電気泳動―飛行時間型質量分析装置(CE-TOFMS)は、解糖系やアミノ酸代謝などに関連する110種の代謝物を一斉に定量分析可能である。温熱後の代謝のダイナミズムを網羅的に評価する。これまで取得済みのRNA発現やタンパク質発現解析データを合わせトランスオミックス解析を進め、温熱下で耐性細胞が引きおこる応答の解明を進める。また、引き続きCTGFの転写因子や受容体の同定を進める。新学術領域内連携として、細胞内温度測定などを進める予定でる。
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Research Products
(5 results)