2018 Fiscal Year Annual Research Report
蛍光性タンパク質温度センサーを用いた生体内温度分布の意義の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Integrative understanding of biological phenomena with temperature as a key theme |
Project/Area Number |
18H04695
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
坂口 怜子 京都大学, 高等研究院, 特定助教 (80723197)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 温度生物学 / バイオセンサー / イメージング / タンパク質工学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、当研究室で開発した蛍光性タンパク質温度センサーtsGFPを、in vivo評価に適した形へ改良した。具体的には、25℃付近で鋭敏な変化を起こす変異体ならびに核に局在型する変異体を作製した。tsGFPは、緑色蛍光タンパク質(GFP)の両端を、コイルドコイルを形成するTlpAで挟んだ構造をしている。このTlpA領域が温度依存的に二量体の形成とかい離の構造変化を起こすことで、GFPの蛍光特性が変化する。そして、TlpAの安定性が、温度変化を鋭敏に検出できる温度領域を決定する。現在報告しているtsGFP1, tsGFP2はそれぞれ37℃と43℃前後で最も高い感度を示すが、線虫、ショウジョウバエなどのモデル生物は至適生育条件が25℃前後である。従って、この温度域で最適な感度を示すtsGFP変異体を設計することで、これらモデル生物の細胞内小器官における熱産生や温度変化を観察可能となる。そこで、アミノ酸レベルでの変異体を数種類作製し、25℃前後で鋭敏な感度を示す変異体が得られた。さらに、Simian Virus 40由来の核局在シグナルを付加した核局在型tsGFP1-nucを作製した。 これらの成果を元に、以下の発表を行った。 1. Reiko Sakaguchi, “Development of Intracellular Thermosensors for the Understanding of Energy Production in Mitochondria”. The 9th International Symposium of Advanced Energy Science, Sept 4th, 2018 (invited speaker). 2. 坂口怜子、清中茂樹、森井孝、森泰生「ミトコンドリアのエネルギー産生システムの理解を目指した細胞内温度センサーの開発」ゼロエミッションエネルギー研究拠点 平成30年度 共同利用・共同研究成果報告会、2019年3月7日
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である、生体内温度分布の意義の検討のためには、細胞レベルのみではなく、個体レベルでの観察が必要となる。本年度は、tsGFPのモデル生物での利用を想定して、鋭敏に変化する温度領域を低温側にシフトさせるために、コイルドコイルの安定性を下げてかい離しやすく変異体の作製を行った。手法として、TlpAのアミノ酸配列情報に基づき、配列中でαへリックスを安定にするロイシンの代わりに、構造を不安定にさせるプロリンを挿入した変異体を作製した。当初の研究計画通り、変異箇所の組み合わせによって数種類の変異体を作製し、25℃付近を鋭敏に感知できる、モデル生物での観察に最適な挙動を示す変異体を選択することができた。さらに、細胞内小器官レベルでの温度変化観察のため、現在までに、tsGFPのvariantとしてミトコンドリア局在型、小胞体局在型、膜局在型を報告済であるが、本年度は、Simian Virus 40由来の核局在シグナルを付加した核局在型tsGFP1-nucを作製した。核内ではDNAの複製・RNAの転写など熱収受を伴う反応が起こっていると考えられ、このセンサーを用いて核内の温度変化を観察することによって、細胞周期の制御などに関する知見が得られる。以上の理由から、概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は当初の計画に沿って、以下の方針で研究を推進する。 検出波長域の異なる変異体の作製:現在のtsGFPの励起波長は380 nmと480 nm付近だが、この波長の光は生体組織の透過性が低く、生体内部の観察には適さない。そこで、GFPの代わりに、生体組織を透過する光波長域の変異体を作製する。具体的には、700-900 nmで励起・検出可能なDsRedやiRFPなどの蛍光タンパク質を導入し、生体内部の温度変化を検出できるセンサーを作製する。 作製したセンサーの試験管内での機能評価:作製したセンサーを大腸菌発現系で発現・精製し、その温度依存的な蛍光特性を試験管内で評価する。狙った温度特性やS/N比が得られた場合は、細胞内で起きうる環境変化(pHや金属イオン濃度変化)やその他の生体内物質(塩、ATP等)に対してセンサーが安定であることを確認する。更に、円偏光二色性スペクトルを測定して、コイルドコイル領域の温度依存的な構造変化を定量評価する。 細胞内温度センサーのin vivoでの評価:これまでに作製したセンサーを実際にモデル生物内に導入する。現在共同研究先と共に、ノックインショウジョウバエ並びに、ウィルス体を用いたマウスへの導入を進行中である。センサーの発現が確認できた個体について、定常状態、ならびに寒冷・温熱条件や低酸素ストレスなどに曝露された際のミトコンドリアや小胞体、核内などの熱産生の変化を評価する。さらに、温度感受性分子であるTRPV1などをノックダウンした場合の応答の違いを検討する。
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Research Products
(4 results)