2018 Fiscal Year Annual Research Report
染色体融合によるM期停止機構の4D解析
Publicly Offered Research
Project Area | Chromosome Orchestration System |
Project/Area Number |
18H04712
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
林 眞理 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (90761099)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 染色体融合 / 上皮細胞 / 間葉細胞 / M期停止 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、染色体末端を保護するテロメアの機能不全により染色体が融合した際に、染色体や細胞にどのような影響が生じるかを解明する。特に、様々な異なる細胞の種類において、染色体融合の運命が異なるとの仮説に基づき、研究を遂行する。これまでの研究から、染色体融合は、ヒト肺線維芽細胞においては細胞周期M期停止を引き起こすのに対し、ヒト乳腺上皮細胞ではそのような表現型は見られないことがわかっていた。しかしながら、この違いが、遺伝的なバックグラウンドの違いによるものなのか、細胞の種類の違いによるものなのかはよくわかっていなかった。 2018年度においては、ヒト乳腺上皮細胞(HMEC)、及び上皮間葉転換を引き起こしたHMEC-EMTを用いた解析から、染色体融合がHMECでは2核化を引き起こすのに対して、HMEC-EMTではM期停止を引き起こすことを明らかにした。よって、同一の遺伝的バックグラウンドを持つ細胞においても、細胞の種類が変化することで、染色体融合の運命が異なることが明らかとなった。また、HMECとHMEC-EMTではM期停止やDNA傷害を引き起こす薬剤への反応に差は見られなかった。一方、複製ストレスを生じる薬剤への反応が異なることがわかった。さらに、細胞周期を可視化する技法とライブセルイメージングを用いた解析の結果、染色体融合は、間葉系の細胞において、M期停止の前に、DNA複製(S)期の遅延を引き起こしていることが明らかとなった。これらの結果から間葉系の細胞では、染色体融合が原因となって生じた複製ストレスによってM期停止が引き起こされることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画では、当初、上皮細胞、線維芽細胞それぞれの細胞種について、複数の異なる細胞を用いて実験を行い、染色体融合の表現型の普遍性の有無を確認することを予定していた。研究計画に則り、線維芽細胞については、胎児肺由来のIMR-90及び、乳線由来のHMFについて実験を行い、どちらの細胞でも染色体融合におけるM期停止を確認した。しかしながら、全ての市販の細胞は、異なる個体から得られたものであるため、遺伝的バックグランドの違いが表現型を左右する可能性を否定できないという問題に思い至った。そこで、これを解決する手法を模索したところ、ヒト乳腺上皮細胞HMECをTGF-bで処理することによって、上皮間葉転換が引き起こせるという報告を見出した。この手法を取り入れることで、全く同じ遺伝的バックグラウンドの細胞でも、異なる細胞種へと変換させうることがわかった。よって、研究計画を展開し、この手法を用いた実験を行なった結果、確かに染色体融合は、上皮細胞では2核化を、間葉細胞ではM期停止を引き起こすことが明らかとなった。また、計画に則り、姉妹染色分体を可視化するシステム(FuVis-XpSIS: Fusion Visualization system for Xp SISter chromatid fusion)を用いた解析の結果、上皮細胞由来のがん細胞であるHCT116では、1つの姉妹染色分体はM期停止を引き起こさないことも明らかになった。よって、本研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、上皮間葉転換の手法を用いることで、同じ遺伝的バックグランドの細胞における染色体融合の運命解析をさらに発展させる。すでに2019年度の実験計画であった、様々な薬剤に対する上皮細胞、間葉細胞の応答の違いについて、研究を進行しているところではあるが、さらに複数の薬剤を用いて、M期停止がどのような染色体異常によってもたらされるのかを解析する。例えばサイトキネシス阻害剤による4倍体化や、低容量の微小管阻害剤による微小核の形成が続くS期、及びM期に与える影響などを解析することで、染色体融合の引き起こすどのような異常が、続く細胞周期に影響を与えているのか、特に間葉細胞においてS期とM期の遅延を引き起こしている真の要因について、理解を深めることを目的とする。
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