2018 Fiscal Year Annual Research Report
軟体動物割球特異化機構を題材にした発生システム浮動の方向性と制約の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Evolutionary theory for constrained and directional diversities |
Project/Area Number |
18H04812
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
守野 孔明 筑波大学, 生命環境系, 助教 (20763733)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 発生システム浮動 / らせん卵割型発生 / 系統特異的転写因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
発生システム浮動は発生進化の源泉となる変異を生み出す。従って、発生システム浮動の方向性の理解は発生進化の方向性の理解へとつながる。本課題では、保存された発生パターンを示す軟体動物腹足類3種を用いて、初期発生期の割球群ごとの転写因子発現プロファイルがどれだけ浮動しうるのか、そこにはどのような傾向がみられるのかということを理解することを目指している。2018年度は、転写因子発現プロファイルの網羅的な比較を可能にする、割球群ごとのトランスクリプトーム解析の開発に取り組み、腹足類カサガイ類のクサイロアオガイの16細胞期において、割球群(カルテット; 1q1、1q2、2q、Mac) を区別しながら割球を分離する手法を確立することに成功した。この手法を用いて、16細胞期の4つのカルテット系列×3 biological replicates、合計12サンプルからそれぞれTotal RNAを抽出し、cDNAライブラリーを作成後、企業受託によってそれぞれ約5Gbずつのシーケンスデータを得た。得られたリードをフィルタリングした後、遺伝子モデルにマッピングし、各カルテット系列の遺伝子発現データを取得した。このデータをもとに、カルテット間で発現変動があり、かつ十分な発現量を持つ遺伝子を探索した結果、16の転写因子が検出された。これらの遺伝子のin situ hybridizationを行ったところ、16細胞期においてトランスクリプトームにみられた発現量の偏りと一致した発現パターンが観察された。このことは、一連の手法がカルテット特異的な発現を示す転写因子を同定する方法として機能していることを示す。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
クサイロアオガイにおいて、割球ごとのトランスクリプトーム解析の手法を確立し、上手く働くことまで確認できた。一方で、他の2種の腹足類のヨメガカサ、クロアワビの解析まで進めることはできなかった。しかし、確立した手法では当初予定していた1細胞トランスクリプトームと違って位置情報を保てるため、必要であったはずの多くの下準備を省略でき、今後の実験を円滑に進めることが可能である。以上のことを考慮すると、おおむね順調に進展してるといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
2018年度に確立したカルテット特異的トランスクリプトームの手法を用いて、2種の腹足類ヨメガカサおよびクロアワビのカルテットごとの発現プロファイルを解析し、クサイロアオガイのデータと合わせて3種間でどれだけの違いがあるかを検出する。このデータの比較により、どの程度の分子経路の変化が発生パターンを変えずに許容されるのか、変えにくい /変えやすい経路はどのような部分なのかということを明らかにする。また、各種で系統特異的転写因子の機能阻害もしくは過剰発現胚のRNA-seqを行い、ターゲット遺伝子を網羅的に同定することによって、SPILE遺伝子を含む系統特異的な転写因子群の機能的な変遷と、それらが発現プロファイルの変遷/保存にどう寄与しているのかを明らかにすることを目指す。
|