2018 Fiscal Year Annual Research Report
酵素1分子の活性揺らぎと進化能の関係
Publicly Offered Research
Project Area | Evolutionary theory for constrained and directional diversities |
Project/Area Number |
18H04817
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上野 博史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (10546592)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 1分子計測 / ゆらぎ / 進化 / 酵素 / 進化分子工学 |
Outline of Annual Research Achievements |
「同一の遺伝情報」を持つ細胞集団においても、個々の細胞の表現型には揺らぎが存在することが知られている。我々の最近の研究から、このような「表現型の揺らぎ」は、酵素1分子レベルでも生じることが分かってきた。つまり同一のDNAから合成した酵素1分子においてもその活性には揺らぎが存在するのである。このような「表現型の揺らぎの大きさ」と「進化」には相関があり、大きな揺らぎを示す表現型ほど進化速度が速くなるという理論が最近報告されている。しかしこの理論がどういった表現型や進化に適用できるかどうかは未だ自明ではない。そこで本研究ではマイクロチャンバーデバイスを用いた酵素の定量進化実験系を確立し、酵素1分子の活性揺らぎと進化能との関係を明らかにする。本年度では1分子DNAのマイクロチャンバー内への封入、1分子DNAからの酵素発現・活性定量、1分子DNAの回収・増幅のプロセスに注目し、これらのプロセスの最適化を行った。1分子DNAのマイクロチャンバー内への封入および1分子DNAからの酵素発現・活性定量においては、ドロップレット形成に用いるオイルやデバイスの流路設計が結果に大きく影響することが判明した。そこでそれらの最適化を行うことで、より均一に封入・酵素発現・活性定量が可能な条件を見出した。また1分子DNAの回収・増幅においては、回収に用いるキャピラリーの径やPCR条件の最適化を行い、プロセスの再現性を向上することに成功した。さらに封入後の活性定量とデバイスからの1DNAの回収を自動で行う自動回収装置を開発し、活性定量から回収までの自動化にも成功している。最終的に確立した実験系を用いて、野生型よりも活性の上昇した変異体を複数個取得することに成功している。これら活性の上昇した変異体の1分子活性分布を計測したところ、活性揺らぎの大きさは分子種によって様々な値を持つことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度で目標とした1分子DNAのマイクロチャンバー内への封入、1分子DNAからの酵素発現・活性定量、1分子DNAの回収・増幅のプロセスについて既に最適化を完了している。さらに最終的に確立した実験系を用いて、野生型よりも活性の上昇した変異体を複数個取得することにも成功している。これら活性の上昇した変異体の1分子活性分布を計測したところ、活性揺らぎの大きさは分子種によって様々な値を持つことが分かった。さらに活性によらずランダムにピックアップした変異体の1分子活性分布の計測も行ったところ、平均活性が低い変異体ほど活性揺らぎが大きくなる傾向が得られている。そのため順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は確立した定量進化実験系を用いて進化実験を繰り返し、より高活性なALPへと複数代進化させていく。得られた各世代の変異ALPの1分子酵素活性計測から活性揺らぎ幅を評価し、1分子の活性揺らぎと進化能との関係を明らかにする。さらに活性揺らぎの異なるALP変異体を起点とした進化実験を行い、起点に用いるALPの活性揺らぎ幅がALP分子の進化能にどう影響するのかを明らかにする。また高活性変異の選択による定方向進化だけでなく、中立変異や低活性変異選択を取り入れた非定方向進化をスクリーニングに取り入れた進化実験を行い、各進化の道筋における活性値の変動と活性揺らぎ幅との関係を明らかにし、それらが進化能、特に進化の遅くなった最終世代の到達活性にどう影響するのかを明らかにしたい。
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