2018 Fiscal Year Annual Research Report
神経ネットワークの揺らぎは配偶者選好性の進化を規定しうるか
Publicly Offered Research
Project Area | Evolutionary theory for constrained and directional diversities |
Project/Area Number |
18H04819
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
石川 由希 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (70722940)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 配偶者選好性 / フェロモン / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ショウジョウバエのフェロモン選好性をモデルケースとし、この選好性に寄与する神経ネットワークを種間比較することで、神経ネットワークの揺らぎやすさがどのように配偶者選好性の進化を規定しうるのかを明らかにすることを目的とした。モデル生物キイロショウジョウバエは雌フェロモン7,11-HDに対して求愛活性を上昇させるが、近縁種オナジショウジョウバエは7,11-HDにより求愛活性を劇的に低下させる。キイロショウジョウバエのフェロモン選好性には5つのニューロンから構成される神経ネットワーク(以降「フェロモン選好ネットワーク」)が寄与していることが報告されていることから、当該年度はまずこのフェロモン選好ネットワークの機能を比較した。オナジショウジョウバエにおいて全ての遺伝学的ツールを導入することはコストがかかるため、オナジショウジョウバエと同様に7,11-HDに対する負の選好性を持つ、2種の雑種を比較に用いた。光遺伝学を用いてフェロモン選好ネットワークを人為的に活性化させたところ、先行研究どおりキイロショウジョウバエの求愛活性が上昇したのに対し、オナジ型の7,11-HD選好性を持つ雑種の求愛活性は低下した。このことから、フェロモン選好ネットワークの機能は、キイロショウジョウバエと雑種で異なることがわかった。一方、フェロモン選好ネットワークの下流に存在する求愛コマンドニューロンの機能は、キイロショウジョウバエと雑種で変わらなかった。このことは、フェロモン選好ネットワークの機能の違いは、これを構成するニューロン群の何らかの性質の違いによるものであることを示唆している。そこでニューロン間の神経接続をGFPで可視化するGRASP法を用いて、フェロモン選好ネットワークにおける神経接続を比較したところ、特定の神経接続が雑種に置いて失われている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
キイロショウジョウバエにおいてフェロモン選好性に寄与することが知られる神経ネットワークの機能を光遺伝学を用いて比較したところ、キイロ型(キイロショウジョウバエ)とオナジ型(雑種)において、その行動機能が異なることがわかった。これは、フェロモン選好性の種間差が、今回着目した神経ネットワークの違いに起因していることを示唆している。また、フェロモン選好ネットワークの下流に存在する求愛コマンドニューロンの機能は、キイロショウジョウバエと雑種で変わらなかった。このことから、フェロモン選好ネットワークの機能の違いは、これを構成するニューロン群の何らかの性質の違いによるものであることが示唆される。GRASP法により神経接続の比較を行ったところ、キイロ型とオナジ型において差異が見出された。フェロモン選好ネットワークを構成するニューロン群のこれまでの知見を総合して考えると、今回特定した神経接続の差異がフェロモン選好ネットワークの行動機能の違いをもたらす可能性は十分あると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度までの成果により、フェロモン選好ネットワークの特定の神経接続の違いが、フェロモン選好ネットワークの行動機能やフェロモン選好性の種間差を説明する可能性が示唆された。今後は、GRASPを用いた神経接続の比較をさらに進め、フェロモン選好ネットワークの神経接続全体の比較を完了させる。さらに、GRASP法で報告されている偽陽性の可能性を排除するため、two-Tag EM法を用いて、当該神経接続を透過電子顕微鏡レベルで確認する。これらにより、フェロモン選好ネットワークのどの神経接続が保存され/分化しやすいのかを明らかにする。
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