2018 Fiscal Year Annual Research Report
Experimental study of ecological fluctuation-response relation and internal evolution
Publicly Offered Research
Project Area | Evolutionary theory for constrained and directional diversities |
Project/Area Number |
18H04821
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
細田 一史 大阪大学, 国際共創大学院学位プログラム推進機構, 特任准教授(常勤) (30515565)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 揺らぎ応答理論 / 実験生態系 / 実験進化 / 微生物生態系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究全体としては、「研究の目的」、「研究実施計画」のとおり、27種の微生物を混合した実験生態系を用いて短期的な揺らぎと長期的な変化の関係を解析する。具体的には下記6項目を行うものである。「(1) 多様性などをある程度保ち継代培養できる条件を4条件だけ探索する。(2) 4条件それぞれについて、約100の反復実験を行い、分散(短期的な揺らぎ)を測定する。(3) 4×100個の実験生態系を約100世代相当継代して長期変化を測定する(進化実験)。(4) 実験生態系の様々なパラメタの変化から短期的揺らぎと長期変化の関係性を解析する。(5) 進化実験の前後において大腸菌を単離し、遺伝子や表現型の変化を測定する。(6) 以上を説明する数理モデルの構築を試みる。」 この中で、2018年度には以下のように(1)~(3)を行った。 (1) 培養条件の選択:実験生態系が比較的多様性を保ち安定となる条件を選ぶ。様々な条件(振盪と静置、光や温度の強度、炭素源濃度、その他栄養濃度など約400通り)を検討し、目的の条件を得た。 (2) 生態系の短期的な揺らぎを計測:上記4条件のそれぞれについて、24反復の培養を1週間行い、約40次元のそれぞれの測定量に対して分散を求めた。 (3) 継代培養:4条件の実験生態系を継代する。2018年度はこれの開始であり、2019年度に引き続いて100世代おこなえるよう、培養および継代方法や測定方法を確立した。 なお、これらに加えて、(4)や(6)のためのデータ解析も進め、およその傾向や有用な具体的手法などがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度に得られた結果の各項目に関する詳細の進捗状況は以下である。 (1) 実験生態系が比較的多様性を保ち安定となる条件を見つけ出した。当初の予定にある条件に加え、2018年度での新学術会議においてコメントいただいた空気交換の有無も試した。地震の影響もあり当初の予定以上に様々な条件を試すことになって少し遅れたが、その分だけ理解は得られたため、全体の研究進捗のためにはむしろ良かったかもしれない。 (2) 生態系の短期的な揺らぎと、遷移過程での変化の関係を、以降のプレ実験の意味も含めて観測した。遷移過程での変化とは、27種をまぜた直後から、ある程度の安定状態に向かうまでの変化のことである。具体的には、48種類の異なる培養条件である実験生態系について調べた。なお揺らぎ応答理論は、この遷移過程での変化を記述するものでは無い。結果、やはり分散と変化に明確な関係は見られなかったが、統計上有意な相関はあった。少し想定とは異なって見えてきた結果であるが、これは有意義であるため、結果を整えて報告するよう進める。その他、これらの平均値や分散の関係などを調べた。 (3) 継代培養の方法を確立した。特に、手作業の継代によりブレがあったところを、ロボットを導入することによりWell間誤差が小さくなるようにした。また培養容器やシーリング、光の当て方など、できる限りWell間誤差がなくなるようにした。これにより継代を開始できるようになり、実際に行っている。 (6) 生態系内部のダイナミクスに関し、非線形力学理論に基づく数理手法を利用することで、実験データから生態系の状態変数それぞれの関係性を調べることができるようになった。予定にはなかったが、ダイナミクスを理解するうえで非常に強力なツールになる手ごたえを感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
先述の各項目に関して、2019年度には以下を行う。 (3) 継代培養の続き。4条件×100反復の実験生態系を100世代相当継代し、継代による長期変化を測定する。最終的な変化だけでなく、多変量の連続的な変化もトレースする。さらに、現在計測しているパラメタに加えて、より有意義なパラメタを増やす予定である。具体的には、顕微鏡画像に深層学習を用いて、各生物を同定していくものである。例えば細菌の杆菌など、種の違いが形態にあられず、したがって人の目でも見分けられないようなものは見分けることができなかったが、それ以外は良好な結果を得られているため、生態系の状態をよりよく記述するパラメタを増加することができる。 (4) 継代初期状態における反復実験での各測定量の分散と、この長期変化の関係を解析する。すなわち、生態系レベルの階層に揺らぎ応答理論は適用可能なのかに答える。実際には、どういった測定量(状態量)がこの理論に従うのか、その適用範囲を解明する。 (5) それぞれの生物は100世代程度継代されるが、大腸菌や酵母の過去の進化実験ではこの程度でもゲノムに変異が入ることが知られているため、進化が期待される(最初の変異は効果が高いことも知られている)。この生態系の中でのゲノム変化や単離後の表現型の変化を調べる。具体的には大規模解析支援を利用する。 (6) 生態系レベルの揺らぎ応答理論について、なぜその結果がえられたのか、生態系内部のダイナミクスを考慮した数理モデルを用いて、その理解を得る。具体的には、上記のデータ解析によりデータ駆動型の客観的モデルを得て、これを参考にして、実験結果を説明することができる主観的な動態力学モデルを構築することで、単純明快な理解に挑戦する。
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