2018 Fiscal Year Annual Research Report
オス特有のトラウマ記憶の性スペクトラム
Publicly Offered Research
Project Area | Spectrum of the Sex: a continuity of phenotypes between female and male |
Project/Area Number |
18H04887
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
坂井 貴臣 首都大学東京, 理学研究科, 准教授 (50322730)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | トラウマ記憶 / 脳神経細胞 / 性決定遺伝子 / Fruitless |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類では,過度なストレスによるトラウマ記憶がオスの性的モチベーションを長期間低下させることが知られている。遺伝学の発達したショウジョウバエ(以下,ハエ)でも似たような現象がみられる。ハエは性ホルモンを持たず,遺伝子発現により細胞自律的に性が決定しており,脳神経細胞にも性差がみられるものがある。ハエの脳神経細胞のうち約3000個が性決定遺伝子を発現しており,オスではオス化ニューロン,メスではメス化ニューロンとなっているが,オス特有のトラウマ記憶の形成機構はよく分かっていない。本研究では,これまでに我々が明らかにしてきたトラウマ記憶に必要な5つの脳領域(キノコ体、インスリン分泌細胞、時計ニューロンの3つの細胞集団(l-LNvs, LNd, DN1))に注目した。そして,トラウマ記憶形成には(1)約3000個の全てのオス化ニューロンが関与しているか,(2)5脳領域に存在する全ての性決定遺伝子発現ニューロンのオス化が必要か,(3)5脳領域における性決定遺伝子発現ニューロンのうち一部のニューロンのオス化でよいのか,を明らかにしてトラウマ記憶形成の性スペクトラムの仕組みを解明することを目的とした。 まず、各脳領域にオス化ニューロンが存在するかを検証した結果、5つ全ての脳領域においてオス化ニューロンが存在していることが明らかになった。もし、それぞれの脳領域に存在するオス化ニューロンをメス化したハエを作製できれば、それらのハエが長期記憶を形成できるかどうかを調べることで上記の性スペクトラムのモデルを明らかにすることができる。2018年度は特定脳領域のみをメス化することができるトランスジェニック系統を作製した。現在、これらの系統を使ってニューロンのメス化が可能かどうかの検証を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、オスのトラウマ記憶に必須な5脳領域においてオス化ニューロンがどの程度存在しているのかを明らかにした。スプライシング調節因子のTransformer (Tra)はメスのみに発現し,2つの転写因子をコードする遺伝子doublesex (dsx)とfruitless (fru)のスプライシングを調節する。メスではTraの制御により♀タイプのDsxが,オスでは♂タイプのDsxとFruが発現する(図1)。ハエの神経細胞の性はFruの発現により決定し、Fru発現ニューロンはオス化ニューロンとなる。オス化ニューロンを可視化するため、組換え酵素FLPによるフリップアウト法と,2つの遺伝子発現システム(GAL4/UAS,LexA/LexAop)を組み合わせた手法(mCherry-off GFP-onシステム)を用いた。トラウマ記憶に必須な各脳領域を赤色蛍光で可視化し、その中のオス化ニューロンのみをGFPにより緑色蛍光で可視化できるトランスジェニック系統を作製した。その結果、キノコ体のγニューロンにオス化ニューロンが存在することが明らかになった。さらに、少なくともインスリン分泌細胞では1個、l-LNvsには4個, LNdには2個, DN1には6個のオス化ニューロンが存在することを明らかにした。さらにmCherry-off GFP-onシステムによりTraの発現を誘導できるトランスジェニック系統を作製した。例えば、キノコ体のオス化ニューロンのみにTraを強制発現させることでオス化ニューロンにFruが発現しなくなりメス化することが可能である。現在、目的のニューロンでGFPが発現するようになるか検証する実験の準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに,mCherry-off GFP-onシステムに利用したトランスジェニック系統の作製が完了した。今後は、まず目的のニューロンにTraを発現させた際にメス化しているかどうかを明らかにするため、抗Fru抗体を用いた免疫染色により確認する予定である。また、目的ニューロンの赤色蛍光が消失し、緑色蛍光を発するようになるかどうかを確認する。現在、キノコ体のオス化ニューロンにTraを強制発現するハエを作成中であるので、これらのハエが完成次第、キノコ体オス化ニューロンのメス化か実現できるかどうかをまず検証する。さらに、インスリン分泌細胞、時計ニューロンの3つの細胞集団に関しても同様に検証する。トランスジェニック系統の検証終了後、各脳領域のオス化ニューロンをメス化した際にトラウマ記憶を獲得できるかどうかを確認する。 現在までに、脳のオス化ニューロン全体にTraを強制発現させるとトラウマ記憶を形成できないことを確認している。しかし、Fruの発現がトラウマ記憶形成に必須な神経回路の形成段階に必要なのか(構造的な雌雄差による要因)、それともトラウマ記憶の固定化、維持、想起、のいずれかに必須であるのか(神経生理機能の雌雄差による要因)、明らかになっていない。そこで、トラウマ記憶を形成する直前にTraを各脳領域で強制発現してメス化し、トラウマ記憶が獲得できるかどうかを今後明らかにする。
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Research Products
(7 results)