2018 Fiscal Year Annual Research Report
繁殖機会の乏しい深海で進化した矮雄化を伴う環境性決定機構の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Spectrum of the Sex: a continuity of phenotypes between female and male |
Project/Area Number |
18H04894
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
宮本 教生 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生命理工学研究開発センター, 研究員 (20612237)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 性決定 / 変態 / 性的二型 |
Outline of Annual Research Achievements |
深海底に沈んだ鯨類の死骸に生息するホネクイハナムシは環境による性決定が提唱されている.すなわちホネクイハナムシは幼生期にはまだ性が確定しておらず,発生が進み基質に着底し,変態するタイミングで環境に応じて性が確定すると考えられている.また顕著な性的二型を示し,雄は変態後に幼生時とあまりサイズを変えずに性成熟し矮雄となり雌に付着して生活する.このホネクイハナムシの性決定機構と性決定後の性特異的な形態形成メカニズムを明らかとするために,様々な条件下での着底実験を行った.また幼生・雌への変態期・雄への変態期それぞれの発生ステージにおける発現遺伝子を比較することで,雌雄の分化に関わる遺伝子,その後の性特異的な形態形成や性成熟に関わる遺伝子を特定するために,各発生ステージ由来のRNAをもちいたトランスクリプトーム解析を行った. さまざまな着底実験の結果,雌への変態を8割以上の確率で誘導する方法を確立した.またトランスクリプトーム解析の結果,幼生は性特異的な形態形成を開始する前から3つのクラスターに分けられることが明らかとなった.そしてそのうちの1つのクラスターは遺伝子発現プロファイルが初期の雄と類似していた.またここの遺伝子の発現パターンを詳細に調べてみると,一部の性決定に関与する遺伝子の発現パターンが幼生の3つのクレードで異なることが明らかとなった.以上の結果は,性の決定がこれまで考えられていたよりも先行して行われている可能性を示唆している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度行った様々な条件下での着底・性決定実験の結果,特定の条件下において,高確率での雌への変態が可能となった.その結果雌雄への分化に必要な条件は解明されつつある.それぞれの個体ごとの発現遺伝子プロファイルを性や発生段階で比較するために,1個体から抽出したRNAを用いてトランスクリプトーム解析を行った.1個体から得られるRNAが非常に微量であるため,シーケンス用のライブラリを作成する段階で様々な条件検討が必要であったが,現在は問題も克服され,安定してデータを得ることに成功している.また情報解析の結果幼生が3クラスターに分かれることが明らかとなった.この結果は当初の仮説からは想定外ではあるが,上記の着底・性決定実験の結果とは整合性が有り,ホネクイハナムシの性決定と性特異的な形態形成開始のタイミングに関して,従来の考えを見直す必要がある.現在はトランスクリプトーム解析の結果,性や発生段階で発現変動のあった遺伝子のうち,性決定に関与していることが示唆される遺伝子について,より多くの発生段階のサンプルを用いて定量PCRを行い,詳細は発現変動を明らかにしているところである.以上のように本年度は予定していた研究計画について概ね順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究の結果から,ホネクイハナムシの性決定のタイミングはこれまで予想されていたものよりも早く,性は着底のタイミングではなく,変態着底能を得た幼生の段階ですでに決定している可能性が浮上してきた.またこのことは従来提唱されていた環境による性決定ではなく,遺伝的に性が決まっている可能性も再度考慮する必要が出てきたことを意味している.すなわち従来は着底のタイミングで,着底基質である鯨類の骨に付着すると雌になり,雌に付着すると雄になると考えられていたが,付着する以前に性が決定している可能性が高くなっているからである.今後は,本年度実施したトランスクリプトーム解析の結果,性によって発現がことなる遺伝子の発現量とタイミングについて,発生ステージをより細かくわけて定量PCRすることにより,その発現の違いが発生のどの段階で生じるのかを明らかとする.またそれらの発現変動遺伝子についてin situ hybridizationにより発現部位を特定し,どのような細胞が性特異的な遺伝子発現を示すのかを明らかとする.また着底実験の条件検討を進め,雌雄の着底条件を解明する.以上の結果を統合して,どの発生段階において,ホネクイハナムシにおける性スペクトラム上の雌雄の度合いが変化していくのかを明らかとする.
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