2018 Fiscal Year Annual Research Report
数値シミュレーションによる北太平洋栄養物質循環の三次元構造と長期変動の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Ocean Mixing Processes: Impact on Biogeochemistry, Climate and Ecosystem |
Project/Area Number |
18H04909
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
三寺 史夫 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20360943)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 海洋物質循環 / 海洋循環モデル / 北太平洋 / オホーツク海 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、オホーツク海・ベーリング海・親潮など北太平洋西部亜寒帯海域の「豊かな海の恵み」を生み出す仕組みを明らかにすることである。北西北太平洋における高い生物生産性を解明するためには、海洋の中深層に蓄えられている栄養塩や鉄分がどこで表層に湧き上がり、どの経路を通って西部亜寒帯海域に至るのか、という北太平洋全体の三次元的な物質循環の理解が不可欠である。その解明を目指し、栄養物質循環の数値モデリングを実施する。また、縁辺海を含めた新たな栄養塩データにより長期変動とモデル再現性の評価を行う。 数値実験に関しては、オホーツク海・ベーリング海を含む西部北太平洋亜寒帯循環の中解像度のモデル(水平解像度0.5°)を用い、1979年~2011年の熱・淡水フラックス、風応力を用いて経年変動実験を行った。モデルは観測されたリン酸塩の変動をよく再現し、大気経年変動の寄与が最も大きいことを示した。これに加え、海洋の中規模渦を解像する高解像度北太平洋物質循環モデルを開発している(水平解像度3~10㎞)。これまで中層の鉄濃度が観測よりもかなり低いという問題があった。H30年度は溶存鉄の濃度を決めるリガンド濃度を改良し、中層鉄循環の再現性向上を進めた。 栄養塩データ解析については、潮汐の18.6年周期変動に注目して解析を行った。従来の北太平洋表層栄養塩データセットを用いた予備解析結果、千島列島やアリューシャン列島に近いところで、潮汐混合が盛んな時期に、表層栄養塩濃度が上昇するシグナルが得られた。さらに詳しく調べるために、新たに縁辺海を含めた新たな北太平洋長期栄養塩データセットを作成した。なお、予備解析の結果は、国際シンポジウムや国内研究集会で発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)オホーツク海・ベーリング海を含む西部北太平洋亜寒帯循環の中解像度モデル(水平解像度0.5°)を用い、1979年~2011年の熱・淡水フラックス、風応力を用いて経年変動実験を行った。海峡部で鉛直混合を大きくするというパラメタリゼーションを用いた。親潮海域のリン酸塩のデータと比較したところ、10年規模変動については、モデルが観測に対して2年程度の遅延があるものの変動をよく再現した。さらに、大気経年変動の寄与が最も大きいことを示した。 (2)北太平洋全域を計算領域とし、オホーツク海では格子間隔が3㎞~7㎞、西部北太平洋では10㎞と、中規模渦を解像する高解像度北太平洋物質循環モデルを開発している。起潮力(K1潮)を陽に導入しているという特徴を持つ。また鉄とリン酸塩に注目する。これまでオホーツク海から北太平洋へと流出する中層の鉄濃度が低すぎるという問題があった。H30年度は溶存鉄の濃度に対して影響の大きいリガンド濃度パラメタリゼーションを改良し、中層鉄循環の再現性向上にめどをつけた。 (3)過去に作成した、北太平洋外洋域を対象とした表層栄養塩の観測データセットを用いて、18.6年周期変動に関する予備解析を行った。その結果、千島列島やアリューシャン列島に近いところで、潮汐混合が盛んな時期に、表層栄養塩濃度が上昇するシグナルが得られた。一方、上記のデータセットは、オホーツク海やベーリング海などの縁辺海を除外した北太平洋外洋域を対象としたものだった。そこで、縁辺海を含んだ北太平洋全域の、新たな表層栄養塩のデータセットを新たに作成した。さらに、World Ocean Database2018(H30年度公開)に収録されているデータや、国立環境研究所のボランティアシップやJAMSTECの研究船みらいによる最新の観測結果を加えることで、期間を2017年まで延長した。
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Strategy for Future Research Activity |
水平解像度0.5度の北西北太平洋物質循環モデルについては、数値実験をほぼ完了していることから、H31年度には特に数年変動や10年規模変動に注目して解析を進めるとともに、成果の取りまとめを行う。 高解像度北太平洋物質循環モデルについては、中層鉄濃度の問題にほぼめどが立ったことから、H31年度はこのモデルに基づいた数値実験を行い、その成果を取りまとめる。具体的には、大気再解析データからモデルに対する強制力(風応力、熱フラックス、降水-蒸発フラックス)を算出し、1979年以降の経年変動シミュレーションを行う。また、栄養塩の経年変動に対してどの強制力が最も効果的か、を示すための数値実験を行う。また、潮汐混合の栄養塩および鉄への影響を調査するため、起潮力の有り・無し実験を行う予定である。 また、新たに作成した栄養塩データセットの解析を進める。このデータセットは、縁辺海を含んでいることから、本領域で注目している千島列島やアリューシャン列島沿いの栄養塩変動を調査することが可能である。また、データの延伸により、長期変化のより精度の高い解析が可能となると共に、季節変化に関しても、より現実的に表現できると予想される。H31年度はこの新たなデータセットを用いて、縁辺海を含む北太平洋全域における表層栄養塩変動を、十年規模変動や18.6年周期変動に着目して調べる予定である。 さらに、以上の数値シミュレーション、データ解析の結果を取りまとめ、海洋の中深層に蓄えられている栄養塩や鉄分がどこで表層に湧き上がり、どの経路を通って西部亜寒帯海域に至るのか、という北太平洋全体の三次元的な物質循環の描像を明らかにする。そして、オホーツク海・ベーリング海・親潮など北太平洋西部亜寒帯海域の「豊かな海の恵み」を生み出す仕組みと長期変動メカニズムの解明を目指す。
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[Presentation] Formation and interannual variations of baroclinic quasi-stationary jets in the transitional domain between the subtropical and subarctic gyres in the western North Pacific2018
Author(s)
Mitsudera, H., T. Miyama, H. Nishigaki, T. Nakanowatari, H. Nishikawa, T. Nakamura, T. Wagawa, Ryo Furue, Yosuke Fujii, and Shin-Ichi Ito
Organizer
PICES-2018 Annual Meeting
Int'l Joint Research
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