2018 Fiscal Year Annual Research Report
潮汐混合ホットスポットの形成に関わる内部波共鳴現象の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Ocean Mixing Processes: Impact on Biogeochemistry, Climate and Ecosystem |
Project/Area Number |
18H04918
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大貫 陽平 九州大学, 応用力学研究所, 助教 (70804201)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 潮汐 / 内部波ビーム / Floquet理論 / モノドロミー行列 / パラメトリック不安定 |
Outline of Annual Research Achievements |
海嶺のような孤立した地形上で生成される内部潮汐は、狭い領域に集中したビーム型の波動構造をつくる。密度成層が一様な場合、ビーム波はBoussinesq近似下でのNavier-Stokes方程式の厳密解となる。そのようなビーム型内部潮汐が不安定を起こし、微細な擾乱を生成するプロセスを、Floquet理論に基づいて幅広いパラメータについて解析した。具体的には、背景ビーム波の振動の一周期ごとの擾乱の変化を記述する行列(モノドロミー行列)を、擬スペクトル法によって離散化された運動方程式を数値的に積分する方法で構成し、その固有値解析によって、発達する不安定擾乱の空間構造や成長率(成長時間スケールの逆数)を算出した。計算には、東京大学情報基盤センターの大型計算機システム(Oakforest-PACS)を利用した。一連の計算により、 1)ビーム波の不安定は、コリオリパラメータをビーム周波数で割ったf/σと、流速シアを浮力周波数で割ったS/Nの2つの無次元数で特徴付けられる。それに対し、N/σにはほとんど依存しない。 2)ビーム振幅が小さい時には、従来から考えられてきたように、(M2分潮の場合)28.8度よりも赤道側でparametric subharmonic instabilityが最大不安定モードとして成長する。成長率が最大となるのは28.8度ちょうどのときである。 3)ビーム振幅が大きくなるにつれて、不安定が生じる緯度帯は高緯度側へと広がる一方、最大成長率をとる緯度は赤道側へシフトする。 4)大振幅ビームからは、三次元的な擾乱が成長する。その周波数スペクトルは、ドップラー効果によって、高周波数側へと大きく広がる。これは、いわゆるPSIとは異なるメカニズムで不安定が生じていると解釈される。 という結果が得られた。特に、1)、3)、4)は、先行研究で見逃されていた重要な知見である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、PSIの臨界緯度よりも高緯度側におけるビーム型内部潮汐の不安定散逸のプロセスに踏み込んだ、初の試みであり、研究実績の概要に記載した一連の結果は、海洋物理学的に価値のある発見と言える。不安定を特徴付けるパラメータf/σおよびS/Nは、単純な計算とCTD・ADCP観測等から算出可能なため、本研究の計算結果は、観測データから内部潮汐の不安定散逸を定量化するための判断材料として有用であると考えられる。さらに、領域内計画班が進めている、局所的な潮汐混合過程の定式化への貢献も期待できる。一連の結果は国際誌へ投稿し、良好な査読評価を得て改訂を進めている。 Floquet理論を用いた解析は、当初は予備的研究として実施する予定であったが、想定以上に興味深い結果が多数得られたため、踏み込んだ分析を行った。国内外へ向けた研究成果の発表も随時実施している。以上のように、2018年度は、理論解析に基づく研究が順調に進展したと言える。なお、それに伴い、数値モデルを用いた研究は2019年度に実施するよう、研究計画を組み替えた。
|
Strategy for Future Research Activity |
ビーム型内部潮汐の不安定によって生成された微細な擾乱のエネルギーが、波数空間内を二次的にカスケードダウンして乱流散逸に至るプロセスを、Navier-Stokes方程式の直接計算を行う非静力学モデルによって再現する予定である。対象海域として伊豆-小笠原海嶺を想定し、2017年12月に実施された観測航海で取得された乱流データを、矛盾なく説明できるような結果を得ることを目指す。不安定のプロセスとして、PSI、あるいは対流不安定やシア不安定はそれぞれどれほどの寄与があるのか?不安定の種類によって、密度混合のエネルギー効率に違いが生じるのか?鉛直拡散係数の空間構造はどのようにして決まるのか?といった問題に焦点を当てて解析を進める。 また、2019年度は領域最終年であり、領域内の共通目標である、海洋大循環モデルに組み込むべき潮汐混合パラメタリゼーションの改善に向け、本研究課題で得られた結果を、使いやすい形に定式化する作業を並行して行う。
|
Research Products
(11 results)