2018 Fiscal Year Annual Research Report
Dynamics of Fe-binding organic ligands and its influence on Fe cycle in the western North Pacific
Publicly Offered Research
Project Area | Ocean Mixing Processes: Impact on Biogeochemistry, Climate and Ecosystem |
Project/Area Number |
18H04919
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
近藤 能子 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (40722492)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 鉄 / 有機リガンド / 太平洋亜寒帯域 / 有機錯体 / 溶解度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は鉄と錯体を作る溶存有機物である「有機リガンド」の存在量やその錯形成能について、北西太平洋亜寒帯親潮およびその上流域における分布を調べ、さらにその有機リガンドが溶存画分への鉄の溶解にどれほど寄与しているかを調べることにより、鉄循環におけるその役割や重要性について明らかにすることを目指している。平成30年度は夏季に本領域研究計画班の主導のもと実施されたロシア船マルタノフスキー号航海において、親潮上流域-西部ベーリング海域より有機リガンドならびに鉄の溶解度の分析用の海水試料を採取した。また、2017年に実施された白鳳丸KH-17-3次航海で採取した北太平洋亜寒帯域における表層試料について、競合リガンド平衡-吸着カソーディックストリッピングボルタンメトリー法による有機リガンド分析を行なった。その結果、硝酸塩が残存する北西太平洋亜寒帯循環域、中央太平洋域、アラスカ循環域の表層10 mでは、有機リガンドはいずれの測点でも溶存鉄よりも高い濃度(1 nM以上)で検出され、有機リガンドは表層に過剰に存在していることが示された。しかし、この濃度レベルは隣接するベーリング海など陸棚域で報告されている濃度と比べると低いことが明らかとなった。平成31年度は平成30年度に採取したベーリング海と北西太平洋の境界域で得られた試料も加え、有機リガンド分析を進めていく。また、同航海で得られた鉄溶解度試料の分析も行い、有機リガンド動態との関係について明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、北西太平洋の鉄輸送に多大な影響を与えていることが予想される親潮上流域-西部ベーリング海より有機リガンドならびに鉄溶解度分析のための試料の採取を行うことができた。本研究代表者は平成30年4月より現職に着任し、鉄の有機リガンド分析を行うためのクリーンスペースの設置や分析機器の立ち上げを新規研究室で一からスタートする必要があった。そのため、海水試料分析のペースの遅れは見られたものの、太平洋亜寒帯の表層有機リガンド分布についての分析を進め、その傾向を捉えることができた。また、実験設備の立ち上げ等で実験操作ができない時は、文献値など過去のデータのまとめを行っており、今後得られるデータとの比較のためのデータベースファイルの作成を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の研究で示された表層有機リガンド分布から、北西太平洋とそれに隣接する陸棚域では有機リガンド濃度に大きな違いがある可能性が示唆された。ただし、海洋における有機リガンド分布に関しては、本研究で用いた分析方法によるデータ報告数は数例と未だ少ないことから、陸棚域含めデータ数を増やす必要がある。試料分析を進めた後考察する上では、海域間で有機リガンド分布が大きく変化する海域・深度を見極めることが鉄輸送過程を解析するために重要であると考えられる。また、平成31年度研究では、北西太平洋における鉄の溶解度と有機リガンドの関係を明らかにするため、本年度採取した試料を対象に鉄溶解度を求め、有機リガンド動態との関係の解明を目指す。この実験で得られる結果から、鉄との錯形成能を持つ有機リガンドが実際にどの程度鉄を溶存させているか把握することで、北西太平洋の鉄輸送過程における有機リガンドの役割が明らかになることが期待される。
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