2018 Fiscal Year Annual Research Report
Development of databank for environmental history in chub mackerel (Scomber japonicus) and Japanese sardine (Sardinops melanostictus) using otolith
Publicly Offered Research
Project Area | Ocean Mixing Processes: Impact on Biogeochemistry, Climate and Ecosystem |
Project/Area Number |
18H04924
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Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
米田 道夫 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, 主任研究員 (30450787)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 資源変動 / 分布・回遊 / 耳石 / 生息環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、マサバとマイワシの分布・回遊の解明に資する生息環境履歴データバンクの開発を目的として、各魚種の耳石δ18Oに及ぼす水温や発育段階の影響評価および耳石δ13Cに及ぼす餌条件の影響評価を行う。さらに、得られた成果を統合して両種の耳石安定同位体比に基づく生息環境履歴データバンクとしての有効性を評価する。 まず、マサバ親魚にホルモンを投与することにより、産卵を誘導させ、採取された受精卵(卵)を18℃と20℃の処理区に収容した。20℃区では26日齢時にALC標識を行った後、16、20、24℃区へ標本をそれぞれ収容し、65日齢から70日齢時まで実験を行った。実験期間中、豪雨や酷暑の影響により、飼育水のδ18Oや水温が大きく変化した。実験終了時の標本の耳石にはALCが明瞭に確認できた。ALCから耳石縁辺部までの距離、日齢査定に基づく輪紋間隔などを考慮して、ALC標識直後の約1週間および実験終了約1週間の2採取地点のδ18Oと水温の関係を調べるのが適当であると判断された。この結果、設定した4水温帯から6つの異なる水温情報を得ることが可能になった。耳石の2採取地点のδ18Oを統合した結果、マサバ稚魚~幼魚の耳石δ18Oと水温の関係は次式で示された:δ18Ootolith-δ18Owater = - 0.25T + 4.49 (R2=0.94)。飼育実験から得られたマイワシの耳石δ18Oと水温の関係と比較すると、両者の関係式において傾きが異なることが判明し、マサバ耳石δ18Oの水温に対する変化量はマイワシよりも大きいことが示された。このことから、マサバの耳石δ18Oから水温を推定するには、マサバ独自の換算式を用いることが不可欠であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
梅雨時期の豪雨や梅雨明けの酷暑の影響により、想定された飼育設定条件を維持することが難しかったものの、マサバ稚魚~幼魚期の耳石δ18Oにおける水温換算式を構築することに成功した。このような精密な飼育実験と分析に基づいた海産有用魚類における耳石δ18Oの水温換算式は、先行研究であるマイワシに次いで2例目である。一方、予備観察から、同じ水温でもマサバ耳石δ18Oは仔魚~稚魚期において劇的に変化することが確認された。このような情報は魚類において報告例がないこと、これまで調査されてきた天然マサバ仔稚魚における耳石δ18Oに基づく水温推定には再考の余地があることなどが判明した。このため、マサバの資源変動機構の鍵を握る発育初期の経験水温を正確に推定するには、仔魚~稚魚期における耳石δ18Oの水温換算式を新たに構築することが不可欠であるとの認識が得られた。また、マサバと同様に、マイワシの耳石δ18Oでも同様の現象が起こる可能性が示されていることから、その検証実験を継続しているところである。マサバとマイワシにおいて、発育初期の耳石δ18Oが水温とは独立的に変化することを確認できれば、変態期を経験する多くの海産有用魚類においても同様の現象が起こる可能性があり、魚類の耳石δ18Oと水温の関係における解釈に新たな展開をもたらすことが期待される。以上のことから、当初の計画以上に進展していると判断された。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は次の3つの実験に取り組む。①マイワシ耳石δ18Oに及ぼす発育段階の影響、②マサバ耳石δ18Oに及ぼす発育段階と水温の影響、③マサバ耳石δ13Cに及ぼす餌料の影響。得られた耳石の安定同位体比の分析を進め、その影響評価を行う。特に②について、マサバ仔魚~稚魚期のδ18Oと水温の換算式の構築を目指し、天然マサバ仔稚魚の水温履歴推定へ適用させていく。一方、耳石δ13Cに関してはこれまでその解釈が極めて難しいため、詳細な議論はほとんどなされてこなかった。しかし、本研究においてマサバの耳石δ13Cと餌料環境の関係および耳石δ18Oと水温の関係を明らかにすることができれば、天然マサバの初期成長に及ぼす環境影響を詳細に評価することが可能になり、成長―回遊モデルの高度化につなげられることが期待できる。これらの成果は、当該領域が目標とする、潮汐18.6年振動を含む海洋混合強度変動に伴う環境変動が、マサバ資源に与える影響を評価することにも大きく貢献する。
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