2018 Fiscal Year Annual Research Report
悲観的な価値判断と相関する大脳皮質ー線条体における新たなベータ波
Publicly Offered Research
Project Area | Non-linear Neuro-oscillology: Towards Integrative Understanding of Human Nature |
Project/Area Number |
18H04943
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
雨森 賢一 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (70344471)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 霊長類 / ベータ振動 / 情動 / 意思決定 / 線条体 / コヒーレンス解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
大脳皮質-大脳基底核の局所電場電位 (LFP) のベータ振動現象は、黒質ドーパミン (DA) 細胞の異常によって引き起こされるパーキンソン病 (PD) やその動物モデルで顕著に表れ、運動の制御に関わると考えられてきた。こうした中、研究代表者らは、価値判断の悲観度を定量化できる葛藤課題を考案し、課題遂行中のマカクザルの大脳皮質-大脳基底核から LFP 記録を行ってきた。本研究では、これまで記録したデータのみならず、新たに大脳皮質下領域から神経活動や LFP を計測し、これまで報告されてきた運動制御だけではなく、情動や価値判断に特徴的に応答するベータ振動 (情動ベータ振動) が存在することを示す。 当該年度は、これまで長年にわたって記録してきたデータを用い、線条体の局所電場電位のベータ振動に着目し、この線条体ベータ波が悲観的な意思決定と相関することを突き止めた。特に、本年度は、これまで蓄えてきた線条体のLFPデータを用い、悲観的な意思決定を表す神経活動の同定を目指した。この研究では、不安や負の結果に対する価値判断を定量的に取り扱うことのできる葛藤課題を遂行中のマカクザルの線条体からLFPを記録した。刺激をあたえている際に尾状核における電場電位を同時に記録したところ,ひき起こされた悲観的な価値判断に相関してベータ波の活動が変化することがわかった.これらのことから,尾状核の局所の神経回路は悲観的な価値判断に因果的にかかわり,尾状核における電場電位のベータ波はこの不安に似た状態と相関して活動することが示された.研究成果は、本年度、国際論文誌(Neuron)にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、多点、マルチサイト神経活動記録法によりこれまで記録してきたデータを用い、情動に関わるベータ振動の論文を投稿し、国際学術誌で発表した。不必要に悲観的な考えが持続的につづいたり,同じ意思決定をくり返してしまったりという症状は,不安障害や強迫性障害においてしばしばみられる.これまで,不安障害と相関して活動する脳の領域は調べられてきたが,こうした症状に因果的にかかわる領域は同定されていない.この研究において,筆者らは,刺激をあたえている際に尾状核における電場電位を同時に記録したところ,ひき起こされた悲観的な価値判断に相関してベータ波の活動が変化することがわかった.これらのことから,尾状核の局所の神経回路は悲観的な価値判断に因果的にかかわり,尾状核における電場電位のベータ波はこの不安に似た状態と相関して活動することが示された.
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Strategy for Future Research Activity |
われわれは、これまでの研究で、葛藤課題遂行中のマカクザルにおいて、辺縁系 (ACC, CN, vmPFC) と前頭前皮質 (PFC) のLFPの同時記録を終了させている。今後は、この同時記録データをもとに、辺縁系の長距離領野の間で見られる同期的な活動が、意思決定・価値判断にどのように関わるかを明らかにする。これらは、因果解析などの更なる理論的な分析を可能にする重要な基礎データであり、辺縁系ネットワークの情報処理の解明を目標とする。
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